エゴは塵
家猫のノラ
第1話
「藤野くん、君は子どもについてどう思う?」
学食のカレーを頬張っていると先輩に声をかけられた。
「はあ。どう思うったって、うーん、可愛いんじゃないですか?俺結構好きですよ、あっロリコンとかじゃないですからね」
「君の性的趣向はどうでもいい。好きなのか、じゃあ自分の子どもがほしいと思うのかい?」
「まぁ思いますね。結婚できたら」
「病気や障がいを持って生まれてくるかもしれないのに?」
「それはその子の価値を決めるものではないでしょう」
「価値を決めるなんて誰が言った。その子にとって生きづらいかもしれないということだ。そもそも君はその子の価値で愛するか愛さないかを決めるのか」
「…。でも生きづらいと決めつけて産まないなんてのはおかしな話じゃないですか!!何が幸せかはその子が生きて、決めるべきです」
「君はそれに寄り添う覚悟があるのか。それが1番の問題なんだよ」
「それは…!!」
「それにもしその子が幸せになれても、辛いことがいつやってくるかは分からないんだよ」
「…」
「事故・事件・災害・戦争全てのリスクを生まれた瞬間に子どもに背負わせているんだ」
「…」
「被害者になる不安ばかりではない、加害者になる可能性だってあるんだ」
「だって…」
「今から言うことはエゴじゃないかい?」
「…。でも俺は、子どもほしいです。子どもを絶対不幸にさせないです。」
「…、すまない藤野くん、熱くなりすぎてしまった。完全な八つ当たりだったよ」
「いや、あの、先輩が正しいかどうかは分かんないけど、勉強になりました。ていうか珍しいですね。そんな怒るなんて。どうしたんです?」
「怒る、というかね。うんまぁ、1週間ほど前、母に『産まなきゃ良かった』って言われてね」
「…」
「産まれなきゃ良かったんだねって思ってさ。ていうかなんで子ども産みたいと思うのかなって思ったんだ。こんな人間になるかもしれないものを」
「…」
「それからずっと考えていたんだけど、結局親のエゴしか思いつかなかった。寂しいから、老後が心配だから、愛する相手を繋ぎ止めたいから」
「…」
「死んでやろうかと思ったよ」
「先輩に生きてほしいです」
「その言葉の重さを君は分かっているのかい?」
「死にたいなら死んでもいいけど俺は生きてほしいって思ってます」
「僕はエゴに生かされているのか…」
「…先輩学部どこですか?ていうか名前教えてください」
「僕は学生じゃないんだ」
「えっ」
「ただ近所の大学の食堂を徘徊する社会に適合できなかったニートだよ。童顔らしいけどアラサーだ」
「ええっ!!」
「じゃあね。また生きてたら話そう」
いつも同じカレーを食べてる。金がないから1番安いのを選んでる。
生きていてほしいと願うことを許してほしいと思いながら残りを生きるために食べた。
エゴは塵 家猫のノラ @ienekononora0116
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます