第34話 15層での戦闘

 夜桜競技会が始まって2日目。俺は起きて寝袋から出ていた。ダンジョンで寝るのは初めてであり、空気の味が全然違うように感じる。このような体験をするのは、俺にとって貴重なものになるだろう。


「片付けて行く準備でもするか」


「ふふ、いつ行く。私も同行しよう」


「何故いるんだリオン」


 いつの間にかリオンが後ろにいた。怖いんだが。


「朝のコーヒーが終わったからな。手伝いに来たんだ」


「そうか。じゃあ手伝ってくれ」


「了解した」


 俺はリオンの手伝いもあり、片付けは素早く終わった。リオンは俺と対面する。


「それじゃあ行こう。女の子が君を待っているぞ」


「? どういうことだ?」


「着いてからのお楽しみさ」


 リオンは俺の手首を掴んで引っ張っていく。俺は特に抵抗することなくついて行くことにした。女の子って、まさかねぇ。


 俺が連れてこられた場所は、Aクラス、つまり由梨と天音がいる場所であった。

 銀髪の少女が前に出る。


「リオン君、お疲れ様です。遠野和真君、初めまして。私は金ヶ崎かねがさき由梨ゆりと申します」


「……改めまして、佐々木天音よ」


「遠野和真です。それで、Aクラスは俺になんの用があるんですか?」


 俺はEクラスの代表ってだけな筈だが。何かやらかしていたか?


「実は私達と一緒に来て欲しいのです」


 ここはEクラスの立場になって振る舞うとしよう。


「良いのですか? こちらとしては願ったり叶ったりなんですが」


「はい。私達Aクラスは貴方に興味があります。貴方の実力はEクラスの中でも抜き出ている。あの【ダークボール】を見た時、只者ではないと解りました。それに、貴方はアレを無言で行った。私ですらやったことが無いのに」


 やっべ、普通にやらかしていたぞ。でも無言ですることくらいならリオンは勿論、由梨や天音でも出来そうだとは思うけどな。


「出来たとしか言い様がありません。恐らく貴方達でも出来るでしょう」


「リオン君、貴方なら出来ますか」


「出来るでしょう。由梨や天音だって出来るさ」


「そうですか……」


 リオンの言葉で納得する由梨。相当信用しているようだ。


「それで、どうなの? 来るの? 来ないの?」


 天音が俺に決断と物理的に迫ってきた。


「……分かりました。ついて行きます」


「ふふっ、そうですか。それならよろしくお願いします。それと敬語は要りません」


「分かった」


 こうして俺はAクラスと共に行動することになった。




 俺とAクラスは他のクラスと同じようにダンジョンを進んでいた。ここまで来るのに活躍したのは前衛のCクラスだけである。

 だから余裕が出来ていた。


「遠野君は、コーヒー派、紅茶派、どっちですか?」


「コーヒー派かもな」


「私は紅茶の方が好きです」


 ここに来るまで質問攻めにあっていた。質問するのは、由梨である。その殆どが他愛のないものである。天音はそれを無言で、リオンは微笑みながら見守っていた。


「あの【ダークボール】はどのようにしてやったのでしょうか。とても気になります」


「私も興味がある」


「……私も。あれはどうやったの?」


 うーん。話しても良いだろうか。


「それは、僕も興味がありますね」


「貴方は……」


 この会話に入ってきた人物。黒髪で制服を着ている少年。


「初めまして、僕の名前は神谷かみや京介きょうすけ。Bクラスの生徒です」


「遠野和真です」


 俺、ついでにリオンは知っているが、京介はこのイベントで盛大にやらかす人物である。断言する、京介は敵だ。

 でもそれは未来の話。主人公が階層比べではない場合、イベントは起こらなかった。今回も起こらないかもしれない。

 まぁ信頼出来る人物ではないがな。


「それで、教えてはくれないでしょうか」


「……秘密です。教えることは出来ません」


 【ダークボール】を魔力を倍消費して撃つことは秘密にした。どんな未来になるか分からない上に、強化に繋がるから。


「手厳しいですね」


「教えて相手が強化されたら、Eクラスに勝ち目があるかどうか」


「ふむ、成程。……所詮この程度か」


 俺は鈍感主人公ではない、筈。聞こえているぞ。

 そんなことを話していたら、俺達は15層に来ていた。


 階層比べでイベントが起こる。




 Cクラスの様子が可笑しくなる。それもその筈。現在、Cクラスはモンスターの大群に襲われている。これはレジダンでも起こったイベントであった。

 Cクラスのリーダーの声が15層に響き渡る。戦闘の音が鳴り響く。


 こうしている間にも、Bクラスは誰も動かない。完全に見捨てようとしていた。


「これは、彼らの慢心が引き起こした事態。リーダーである彼ならこの状況を打開出来るでしょう。……もっとも、犠牲無しではありませんがね」


 京介はそう言っている。助けるつもりなんて微塵もない。


「畜生! ここで俺らを見捨てる腹積もりか!」


「きゃあっ!!?」


「っ!? 千春!!」


 この一瞬で、明莉が脳裏を過ったのは何故だろうか。いや、そんなことはどうでも良い。俺は踏み出す。


「行くのですか。利益のない戦いですよ」


「ならお前はここで笑っていろ。……俺は俺に出来ることをするだけだ」


「千春うぅぅぅ!!!!」


 悲痛な叫び声だ。今すぐ消したいくらいには。


「【身体強化】、【武装強化】」


 ダークソードを抜いて、一番群がっている所に駆け出す。モンスター共を切り伏せた。


「貴方は……」


「さて、やるか」


 駆け出す。モンスターを切り伏せていく。もっと速くに動け。誰も死なせるな。

 ダークソードを振るい続ける。動きを止めるな。


「【ライトボール】」


 光弾がモンスター共に当たる。刀がモンスター共を切り裂く。


「今こそ反撃の時! モンスター共を切り伏せよ!」


 リーダーの声が響き渡る。Cクラスが反撃に出た。

 俺ももう少し頑張るとしよう。


 それから俺達はモンスターを狩り続けた。Aクラスに便乗した形になるが、Bクラスの援護もあり、俺達はモンスターを倒し続けたのだった。




 戦いが終わり、疲労かCクラスの者達は息を切らして地面に座る。余裕がある者達はまだ立っていた。

 由梨は傷を負った者達を【ヒール】で癒していた。


「貴方、ちょっと良いですか?」


「うん? 嗚呼、あの時の」


「私の名前は茨木いばらぎ千春ちはる。貴方には感謝している。ありがとう」


 千春は俺に感謝をしてくれた。俺は、感謝をされるようなことはしていない。


「気にするな。俺は、俺の考えで助けただけだ」


「Eクラスにも強い者がいるですね」


「嗚呼、いるにはいる」


「千春!」


蔵之介くらのすけ!」


 鎧武者のような男がやってきた。この男こそがCクラスのリーダーである。


「貴方が千春を助けてくれたのか。感謝する」


「いや、気にしないでくれ」


「そうか。俺の名前は桜花おうか蔵之介。いずれこの恩は返したいと思っている」


「遠野和真。Eクラスの代表だ」


 お互いに握手する。良い男だな。なんとなくそう思う。


「蔵之介、私達は……」


「嗚呼、我々はここで離脱する」


「そうか」


 Cクラスはモンスターの襲来にあった。今は由梨の【ヒール】で回復しているが、この先通用するとは思えない。妥当な判断だろう。


「遠野、我々はここで引き下がるが、行くのだな」


「嗚呼、勿論だ」


「……頑張れよ」


「分かった」


 その後、Cクラスは魔石を数個回収して撤退した。最後まで蔵之介と千春は礼をしていった。




 俺達は最終的に18層まで到着した。前線を引き受けてくれたのはBクラスである。一応感謝はあるが、それはそれで脱落して欲しい。



 18層は草原のようで、空があった。今は夜空である。

 18層でテントを張ろうとした時、リオン達Aクラスがやってきた。


「どうしたんだ?」


「実は一緒にキャンプしようって提案した。和真はどうかな?」


 一緒にキャンプか。別に悪くはない。連絡する時は席を外せば良い。


「良いよ」


「ありがとうございます」


 こうして俺とAクラスは一緒にテントを張る。張った後は、円形のように座った。


「はい、どうぞ」


「いただきます」


 隣にいた由梨から紙コップを渡される。中身はコーヒーだった。


「美味しい」


「やはりダンジョンで飲むコーヒーの味は違うようだ」


「いつも通りに作っているだけなのに、ここまで味が変わるんですね」


「……」


 俺はふと天音に視線を向ける。天音は仮面を外しておらず、コーヒーを飲んでいない。そうか、俺が見ているかもしれないから天音は飲めないのか。

 天音にはがある。その所為で仮面を付けているのだ。


 それを知っている俺は、目を閉じた。


「? 何してるの?」


 声は天音のものであった。


「いや、俺の憶測だけど見せたくないんだろ、顔。だから目を閉じれば飲んでくれると思っている」


 数十秒だけ沈黙が続いた。飲んでいるだろうか。


「うん、ごちそうさま。もう良い、ありがとう遠野」


「そうか、なら良い」


 俺は目を開いた。天音はコーヒーを飲んでくれたらしい。良かった。


 それから俺達は、何か喋る訳でもなく夜空を見ながらコーヒーを飲んでいたのだった。


 解散する直前に、由梨が言った。


「Eクラスの現状は知っているつもりです。もし助けが必要ならいつでも言って下さい」


「分かった。……もし助けが必要ならその時に伝える」


「分かりました」


 俺の本音を言えば、Eクラスのみんなには成長して欲しい。せめてレベル10か12辺りまで行って貰いたい。だから、助けを求めるのはクラス次第である。




 俺は一度テントを離れて夜桜パッドで明莉達に連絡を取る。そして今日の出来事を伝えた。伝えた結果が――


『……』


『明莉ちゃん?』


『和真』


「……はい」


 明莉は何故か不機嫌であった。大体俺が由梨や天音、千春の話をした時からこんな風に不機嫌であった。


『帰ってきたら、沢山話をしようね。約束だよ』


「分かった」


『うん、私達も頑張るからね』


「頼んだ」


 明莉は嫉妬していたのだろうか。どうして嫉妬したのかは分からないけど。


 俺は夜桜パッドの通信を終えて、テントで休むのだった。明日が最終日である。





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レジェンダリーダンジョン~悪役に転移した俺は本気で攻略する~ アンリミテッド @Anrimidetto

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