第33話 夜桜競技会開幕

 今日から夜桜競技会が始まる。これから始まるのはクラス同士で争う文字通りの競争だ。俺もやる気を入れて挑んで行こう。


「行ってきます」


「気を付けるんだぞ」


「頑張ってね」


「応援するからね!」


 俺は制服にマジックバックを背負って、ダンジョンへと向かった。


 ダンジョンに到着すると5クラスの生徒達がいた。沢山いるから周りの探索者に迷惑を掛けていないか心配な所である。


「和真君!」


 手を振ってやって来たのは杖を持った明莉だった。彼女もマジックバックを背負っている。


「明莉。……みんなは何処に?」


「あっちだよ、ついて来て」


 明莉は俺の手を繋ぐと進んで行く。人混みの中を暫く進んでいると、Eクラスが集合している場所に到着した。


「あっ、和真さん」


「やあ和真」


「比奈、竜」


 俺と明莉を見つけて、竜之介と比奈が近付いてくる。竜之介はいつもの状態で、比奈は杖を持ちマジックバックを背負っていた。


「和真、明莉さん、竜之介君、比奈さん」


「んっ、奏汰達か」


 ここに奏汰、葵、柊翔、心音、ついでに淳一がここにやってきた。淳一の後ろにはクラスメイトが数人いる。


「和真、言ったこと忘れた訳じゃねえだろうな」


「忘れてない。任せて欲しい」


「……そうかよ。期待しないでおいてやる」


 淳一はそう言うと離れていく。後ろのクラスメイトも俺を鋭い目つきで見てきた。なんなのだ。


「……淳一のこと、悪く思わないで欲しい」


「全く、素直じゃない男だ」


「和真、明莉さん、竜之介君、比奈さん、頑張ってくれ」


 嗚呼、


「任せろ」


「うん!」


「勿論だよ」


「はい!」


 俺達がそれぞれ答えると奏汰は戻っていく。他3人も俺達を見てから奏汰を追って行った。その後奏汰はクラスメイトを一人一人回っている。


「遠野和真、だよな」


 声を掛けられた。俺が振り向くとそこにはクラスメイトがいた。橙色の髪をした少年。彼は、


伊藤いとう悟志さとしさん、か。話すのは初めてだよね」


「そうだな。階層比べ、気長に頑張ってくれ」


 それだけ言うと彼は立ち去った。レジダンでは出なかった、だからモブだと思っていた。なんか、変な奴だな。自信満々な態度は何処から来るんだろうか。

 そんなことを考えていたらアナウンスが流れる。


『階層比べが始まります。代表者の人は1層への入り口に集まって下さい』


 集合が掛かったようだ。


「行ってくる」


「和真!」


 明莉が上目遣いで見てくる。こう見ると可愛いんだよな。


「頑張ってね! 私達も頑張るから!」


「……おう。任せてくれ」


 明莉に素っ気無く返す俺。おい竜之介、何故そんな温かい目で見てくるんだ。……まぁ、行くか。


 俺は集合場所に向かう。集合場所に着くと既にクラスの代表者がいた。

 2クラスかは大多数の集団を連れていた。大多数の集団になるのは、クラス内に貴族かギルドに所属している人がいるからだろう。

 俺は始まるまで1人で待つこと数分。


『それでは階層比べ、開始して下さい!』


 階層比べが、始まった。




 今、俺は集団の一番後ろで歩いていた。先頭はC、次にB、A、D、Eの順番で並んでいる。現在は7層を通過した辺りだろうか。

 戦闘をCクラスの大集団に任せている。集団だったのはCクラスとBクラスだった。レジダンでもそうだった気がする。もし同じであれば、仲はあまり良くない。


「「「……」」」


 視線を感じてみれば、Dクラスの連中が俺を見ている。どうしてと言わないのは、俺の実力を知っているからだろう。トラブルにはならない筈である。

 Dクラスの連中が前に視線を戻すのと同時に、進んでいた筈の男子生徒が俺の横に並んだ。


「やぁ、君はEクラスの代表かな」


「そうですよ。勝率が低いからって理由なので、俺一人です」


「ははっ、そうなのか。でも意外だね、余裕そうに見えるのは気の所為かな」


「余裕なのは自信があるからですよ」


「そうか」


 俺に話し掛けてきたのは金髪の生徒。長い髪をポニーテールで纏めている。手には杖を持っていることから魔術師とでも呼べば良いだろう。

 俺はこの男を知らない。何故なら彼はレジダンでは出てきていない。何者だ。


「私の名前は立花たちばなリオン。Aクラスの代表だ。一応、君の名前を教えて欲しいな」


 Aクラスだったのか。それに、俺を知っているような口振り。


「遠野和真。Aクラスの代表がEクラスの代表になんの用ですか?」


「和真か。……いや、これも何かの縁。和真、是非私と友達に……」


「そこまで」


「いてっ」


 後ろには彼女がいた。黒髪に赤のリボン。ツインテール。胸には貴族バッチ。手には白い手袋をしており、腰には二刀の刀。顔には狐の仮面を付けた少女。

 彼女はヒロインだ。


「貴女は?」


佐々木ささき天音あまね。リオン、私達は仲良しごっこをしに来た訳ではありません。もう少しAクラスの生徒であると自覚しなさい」


「いや、これも縁なのさ」


「言い訳無用です。戻りますよ」


 天音はそれだけ言うと先に戻っていく。


「和真、また話そうか。それじゃあ」


 リオンも天音の後を追うように去っていった。俺は彼にロックオンされたらしい。それに、レジダンでは天音にリオンという存在はいなかった。天音と仲良くしていたのはだけの筈。

 もしかしたらリオンは――




 10層ではCクラスの人達が協力してワイバーンを倒した。流れ弾が来ることもなく、リーダーと副リーダーポジションが頑張ってくれたおかげでこちらに被害は無し。

 こうして11層へとやってきた。


 暫く進んでいるとDクラスの連中が止まり出した。


「おい」


「うん?」


「いつまで進むつもりだ」


 これは、脅されているのか。


「俺が無理って思える場所までは行くつもりだ」


「そうかよ。なら、てめえもここで道連れだ」


 発言と共にDクラスの連中は武器を持つ。ここで戦おうってことか? 俺の実力だって分かっている筈なんだけど。

 前にいた生徒達も異変に気付いた。各クラスのリーダー群がこちらにやってくる。Aクラスは3人全員がやってきた。


「何をしているのですか」


 俺とDクラスの間に入ってきた少女。銀髪で長い髪、琥珀色の瞳。胸には貴族バッチを付け、杖を持っている。

 彼女の名前を知っている。Aクラスにいるもう1人のヒロイン。


「邪魔すんじゃねえよ」


「私は出来る限り皆さんと行動をしたいのですが……」


「実に理想的な発言だ。そんなものは無理だと貴女にだって分かっている筈でしょうに」


 そこに煽りを入れたのはBクラスの彼。俺は彼のことも知っている。レジダンで、このイベントの最後に盛大にやらかすつもりの男だ。まぁ、主人公がいないから起こすかどうか分からないけど。

 言っていることだけは確かである。


「……それでも、出来る限りは」


「彼らにとってここが出来る限りなのですよ。ここはもう、実力を見極めて貰うほかありません」


「……そうですね。でもどうやるつもりですか」


「それは彼らに任せましょう」


 BクラスとAクラスの口喧嘩はなんとかAクラスが納得する形で終わった。敵対関係をここにまで持ち込まないで欲しい。

 それにしてもDクラスの連中は俺に敵意をむき出しである。やる気満々なのは良いが、後悔するなよ。


「取り合えず、下がって。巻き込まれたくなければ」


 俺の発言を聞いたAクラスとBクラスが下がる。そして後ろで事の成り行きを見守るらしい。まぁ、それでも良い。後は俺が巻き込まなければ良いだけだ。


「覚悟は出来たか!」


 武器を構えたDクラスが俺に向かって問い掛けてくる。


「……嗚呼、覚悟は出来ているさ」


 俺は腕を上げて手を広げる。そこに魔力を注ぎ込み、スキル、【ダークボール】を発動する。


「なっ!? なんなんだそのスキルは!?」


 驚愕したような声が聞こえてくる。だって、魔力を倍消費して巨大な球体にしているのだから。

 これがDクラスに当たれば、ただでは済まされないだろう。


「やめ、やめてくれ!」


「覚悟出来ているんだろ」


「い、嫌だ! 死にたくねえ!」


 別に殺すつもりは無いんだが。降参を促してみるか。


「降参するか?」


「「「降参する!!」」」


 意外と呆気なく降参してくれたな。俺は頭上にある【ダークボール】を消滅させた。使った魔力は戻らないけど、結果的に誰も傷付かないなら良いか。

 ふと周りが静寂に包まれる。俺は後ろの方まで確認出来ないからどうなっているのか分からない。


「凄いな、君は」


 拍手する音と共に現れたのは……リオンだった。あのダークボールを見ても拍手をするだけで済ませるとは、リオンもAクラスなんだな。

 さて、Dクラスの方をなんとかしよう。


「降参したんだ。お前達は出来る範囲まで引き返せ」


 それ以外のことはしない。Dクラスは……うん、素直に従ってくれるみたいだ。

 Dクラスは無言で立ち去った。ワイバーンは倒しているから、危険なく9、10層までは戻れるだろう。




 俺達はこのまま11層で野営することになった。各クラス別れて、自分達で準備をしていた。

 俺もテントを組み立てる。


「中々難しい」


「そうだろう。私も、天音や由梨ゆりがいなかったら時間が掛かっていただろう」


 ナチュラルに話し掛けて来たな。


「私も手伝おう」


「……それじゃあ頼む」


 俺はリオンの協力もあってテントを組み立てることが出来た。

 そのまま、俺はテントに座り込みリオンが見下ろしていた。


「ありがとう」


「気にすることではないさ」


 暫く沈黙が続いた。口を開いたのはリオンだ。


「単刀直入に言おう。……君はプレイヤーだな」


 嗚呼、この予想外の動きをしていたリオンは――


「お前も、プレイヤーなんだな」


 俺とリオンは互いに見つめ合っている。プレイヤーだった驚きはあまりなくて、少し納得している部分がある。


「プレイヤーなら、君がここにいるのは納得だ」


「俺はリオンのこと全然知らないけどな」


「それはそうだろう。私はレジダンには出てきて無いなのだから」


 出ているなら少なからず覚えている筈だ。やっぱり出ていなかったんだ。それにしても、モブだと?


「既存のキャラかカスタムキャラクターにしか転移出来ないんじゃないのか?」


「私は既存のキャラクターで転移した結果、立花リオンになった。立花リオンはゲームに出ていないだけで、レジダンでは存在していたのだ。分かりやすく言えば、存在しているモブ、といった感じだろう」


「モブというより隠しキャラ、みたいなものか」


 転移した選択は俺と同じだな。

 それなら、肝心な所を聞いてみるか。


「リオン、ここをどう思っているんだ?」


「それは、ここが現実かゲーム、という話かい?」


 俺は頷いた。リオンは口を開く。


「まるでレジダンの世界が現実になった、つまりここは現実だ。私達は生きている」


「どうやら、俺と同じ考えのようだ」


 リオンはこの世界を現実だと考えている。俺の考えと同じで良いだろう。


「どうやら、私と和真の考えは同じ。プレイヤー同士、友達にならないか?」


 友達か。今、純粋に友達になれるかと言えば否である。まだ、俺の頭には謎のプレイヤーの存在がいる。


「まだ、友達になれるほど貴方を信頼出来ない」


「なら、これからの私の行動次第か。良いだろう。必ず友達になってみせるとも」


 リオンは俺と友達になりたいみたいだ。どうしてここまでするのか知っておこう。


「何故、リオンは俺と友達になりたいんだ?」


「? それは和真がプレイヤーだからさ。同じプレイヤー同士、仲良くしたい。これでも同じ世界で生きていたのだから」


「そうか。そういう考えもあるのか」


 俺は素直にリオンの考えに感心した。


「それじゃあ、お互い頑張ろうか」


「嗚呼、そうだな」


「また明日、会おう」


 リオンは手を振りながらAクラスがいる場所へと戻って行った。俺は、時間を見る。


「ちょうど良いか」


 予め連絡は取り合うように決めてある。俺は明莉達に繋いだ。


『あっ、和真! そっちは大丈夫?』


「大丈夫。ちょっとしたトラブルは起きたが、特に問題なく解決出来た。明莉達の方は?」


 俺は明莉達に近況を聞く。


『それはもう大丈夫。竜君が宝の場所を次々見つけていくんだ。凄いよね!』


『はい。竜さんのおかげで、宝探しはこちらがリードをしています』


『2人共大袈裟だよ。運が良かっただけさ』


 竜之介は微笑みながら伝えてくる。お前、原作知識を利用したな。宝の場所がレジダンと同じだったんだろう。


「そうか。このまま順調に進めば良いな」


『うん、頑張るよ。和真は1人なんだから無理しないでね』


「嗚呼、分かってる。それじゃあ夜も遅いし、また明日な」


『うん』


『はい』


『また明日も頑張るよ』


 俺達は通話を切った。



 その後は竜之介だけにもう一度電話してリオンがプレイヤーであることを伝えた。竜之介はプレイヤーがいたことに驚いていた。安心しろ、名前は伏せてある。

 それが終わると、俺は寝袋の中に入り眠ったのだった。





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