閑話 サーミのその後
アムアレーンたちと別れてから数日が経った。
俺たちはまだサーミの村に滞在している。
本当は、ある程度村の安全が確認できたらライツへ戻るつもりだったのだが、そういうわけにもいかない理由ができ、仕方なしに留まっていた。
「それじゃあ、行ってくるぜ」
「ああ、無理はするなよ」
「い、行ってらっしゃい」
俺は、片足を失い、不自由な身となったブロンと彼を介抱するシェリーに見送られながら、ビオラと共に魔物退治へ出かける。
「しっかし、どこから魔物が湧いて出てきてるんだ?」
「そうねぇ。柱は消滅したし、柱の魔力に引き寄せられてッて感じでもなさそうなのよね」
ここ最近サーミの村には、どこから湧いて出たのか額に翡翠の宝石を付けるカーバンクル・ジェイドや鋼の身体を持つカラス、アーマークロウが頻繁に出現するようになった。どちらも元々はこの大陸にいない魔物だ。
どうして遠く離れたここアインス大陸にいるのだろうか。
「どっちもソーン大陸の魔物よね」
「そうだな。ソーン大陸で何か異変でも起きたか?」
噂によると、アインス以外の他の大陸でも似たような異変が起きているらしい。
砂漠の大陸サンクでは雨を降らせる魔物が出現するようになったとか、熱帯の大陸トロワでは逆に水分を吸収してカラカラにしてくる魔物がでるようになっただとか。
さっき言ったソーン大陸では、逆に出現する魔物が減っているという情報まである。
これを聞いたのは、つい一ヶ月ほど前になるか。
アインス大陸ではそう言った事例は確認されていないが、世界各地で何らかの異変が起きているのは間違いない。
「ともあれ。今は目の前のことを片付けよう」
「そうね。カーバンクルはまだいいけど、クロウを放っておくと面倒なことになるわ」
街道に出た俺たちは、そこにいたアーマークロウと目が合う。
一瞬の沈黙の後、アーマークロウは甲高い鳴き声を上げると、凄まじい速度で突進してくる。
まさにブレイブバード。その恐れを知らない突進に俺は思わず舌を巻いた。
「ははは……なんでこんな強い魔物が平和なアインスにいるかね」
俺は愛用の直剣と短剣を構えて、空からこちらを見降ろしている鋼のカラスを見据える。
「撃ち落とす!――エリミネイトスラッシュ!」
赤い一閃が、衝撃波のように飛んで行く。
アーマークロウは俺の攻撃を避けると、空中で旋回し、そのままダイブするように突進してきた。
「させないわよ!――バインドウィップ!」
それをビオラは鞭で締め上げ、勢いをそのままに大地へと叩きつける。
「続けて行くわ!――エアプレッシャ!」
そして追い打ちをかけるように空気の圧力を発生させ、アーマークロウを押しつぶす。
アーマークロウの鋼の身体はピシリピシリと異音を立て、ひびが入っていく。俺はそのひびに剣を突き刺し、魔力を込めた。
「トドメだ!――ブレイドインパルス!」
剣圧でバラバラに砕け散るアーマークロウ。
飛び散ろうとする肉片は、ビオラの放ったエアプレッシャで地面へと即座に落ちて行く。
俺は二振りの剣を腰に戻すと、ふぅ……と息を吐いた。
「ご苦労様。助かったぜ」
「お礼は別に要らないは。そんなことより、魔石を回収していましょう」
「そうだな」
これが、俺たちの最近の日常だ。
早いこと組合へ報告に向いたいのだが、アーマークロウは放っておくと異常な繁殖力であっという間にその地域を支配する。
カラスの魔物というだけあって非常に頭もよく、環境に適応でもされたら下手な冒険者では太刀打ちできない。
新米冒険者の学びの場として最適なアインス大陸を、こんな危険な魔物で溢れさせるわけにはいかない。
俺は、腰に差した剣に手を触れながら、心の中で独り言ちる。
「さぁ!今日もどんどん倒していくぞ!」
妖精のイデア - Moments of Fairy Tale - 月燈 @Tsukiakari421997
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