第27話 戻ってきたライツ
「それじゃあ、私たちはこれで」
「おう、色々世話になったな。さすがは、初めてこの世界で柱を破壊した噂の人だ」
「褒めてくれてるつもりなんだろうけど、それ恥ずかしいからやめて」
紅焔の翼のみんなと朝食を共にした後、私たちは早速サーミを出発することにした。
次に目指す場所は、魔導大陸と言われている“ソーン”という地だ。
シドリスの話だと、ソーン大陸のブルームとかいう都市に稼働している飛空戦艦があるらしいが、果たして……。
ちなみに、ロイドたちはもう少し村に滞在していくつもりだと言っていた。
ブロンの怪我のこともあるし、村の安全も確かめたいとのことだ。
「村では色々あったねぇ」
「ん。ライツに戻ったら、私たちも一応組合に報告しに行こうか」
「ウィルヌスの冒険者登録もしないとねぇ〜」
「む、何故だ?」
「シファル大陸に上陸するためには、許可証が必要になるからだよ。それを手に入れるためには冒険者のランクを上げるのが一番手っ取り早い」
「なるほど。相変わらず人は面倒な制限を付けたがる」
「まぁ、安全のためだからね。仕方ないね」
◆◆◆
サーミを旅立って約一週間が経過した。
目の前には、既に懐かしさを覚えるライツの街並みが見えてきており、帰ってきたんだと実感する。
道中ここまで特に何事もなく、平和な旅をすることができた。
出現する魔物ももはや敵ではなく、実力差を分かっている者はそもそも襲ってくることもない。
「そう言えば、ウィルヌスは魔物だけど、町や村に張られてる退魔結界に弾かれたりとかしないの?」
「む?もちろん何もしなければ弾かれるぞ」
町がすぐ目の前に迫った来た頃。私はずっと気になっていたことを、彼に尋ねる。
その質問に、彼は何でもないように答え、私たちはガクッと肩を落とした。
「それじゃあ、町に入れないじゃんぅ~!」
「ふん。問題はない。あの結界は敵意持つ魔石持ちにしか反応せんからな」
「どういうこと……?」
曰く、退魔結界というのは、魔物の敵意に強く反応して弾くという仕様になっているらしい。なんでも、魔石から発せられている微弱な魔力波を検知し、人か魔物かを判断しているのだとか。
加えて、魔物の嫌がる魔力も放出しているため、よっぽどの物好きかバカでない限り、結界が張られている場所に近づこうとしないという。
ちなみに、この魔物が嫌がる魔力というのも、元素龍たる彼には効果がないらしい。まぁ、竜脈を管理しているドラゴンなわけだし、そりゃそうだろうとしか言いようがない。
「普通の魔物は、本能のままただ暴れまわる獣だからな。己の感情をコントロールなぞできん。だが俺のように人の言葉を喋り、物事を判断できるような者はその限りではない。それに俺くらいになると、魔石の魔力波を完全に隠蔽することもできる。魔力波を検知できなければ、退魔結界もただの置物に過ぎんよ」
「はぁ……そうなんだ……」
「え?それじゃあ、シドリスの結界を破った理由はなんだったの?」
「む?あれは単純にむしゃくしゃしていたから、見せしめのために破壊してやっただけだ。あの場所は俺の寝床だったわけだからな。お前たちだって、自分の住処に土足で入られ、挙句、よく分からないものに侵されていたら腹が立つだろう?」
「それは、まぁ……」
そんなこんなライツに着いた私たちは、早速冒険者組合に報告へと向かった。
ライツの町は相変わらず喧噪としており、帰ってきたんだと実感を持つ。
「ここが冒険者組合。人がゴミのようにうじゃうじゃいるな」
「言い方ぁ……」
「ん、今日は一段と人が多い」
私たちは適当な会話をしながら、組合の窓口へと足を運ぶ。
「こんにちは!ちょっといい~?」
「はいはい!って、あら?あなたたちは」
窓口で従業員を呼ぶと、近くにいた女性が反応してこちらへ向かってくる。
その女性は、私たちの顔を見ると懐かしい顔だと頬を綻ばせる。
「リアン……だっけ?」
「私のことを覚えていてくれたんですね!お久しぶりです、アムアレーンさん」
そこにいたのは、私を無理やり組合長に引き合わせた張本人、受付嬢のリアンだった。
リアンは、レヴィアの方へも視線を向けて笑顔を作る。
「あなたも久しぶりです。レヴィアちゃん」
「うんうん!久しぶりぃ~♪そっちはお変わりないようだねぇ~」
「そっちこそ」
私は、キャッキャッとはしゃぐ二人を「知り合いだったのか」と無言で見つめる。
私の視線に気づいたリアンはゴホンと咳払いをし、姿勢を正した。
「それで、本日はどういったご用件で?」
「ん、サーミ付近の光の柱についての報告に来た」
「光の柱ですか!?しょ、少々お持ちください!」
私がそう言うと、彼女は速足で従業員用の通路へと引っ込んで行く。
「騒々しい娘だな」
「相変わらずね」
「あはは……」
しばらくすると、リアンはレックスを連れて受付に戻ってきた。
他の冒険者は、「組合長だ!」「マジ!?」「どうしてここに?」とレックスが表に現れたことに驚いている様子。
「やあ、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」
「ん、そっちも」
「おい!あの娘っ子、組合長と親しそうに話してるぞ!」
「綺麗な子……」
「あの長身の殿方は誰なのでしょう」
「横にいるビスティは知ってるぞ!確かシルバーランクの荷物持ちだ!」
周囲からはそんな会話が聞こえてくる。
私は、どうしてただ彼と話をしているだけなのにこんなに注目されないといけないんだ??と困惑しながら、首を傾げた。
「ふふ。ここでは気が散るだろう。ほら、こちらへ来なさい。お二人も」
「は~い」
そして私たちは彼に連れられ、組合長室に案内される。
「相変わらず変な紅茶の入れ方するね。おじちゃん」
「はっはっは!飲めれば何だっていいんだよ」
私たちは出された紅茶を頂きながら、サーミにあった光の柱について、そしてそこで起きた出来事について簡単に報告した。
報告を聞いた彼は、顎に手を当てながら「そんなことが」と声を漏らす。
「詳しいことは紅焔の翼が話してくれると思う」
「そうか。うん、ご苦労だったね」
レックスは紅茶を一口含むと、ウィルヌスの方へと視線を向ける。
ウィルヌスは腕を組んでレックスを黙って見据え、物々しい雰囲気を出していた。私はどうしたんだと首を傾げる。
「どうしたの?」
「……いや、この男。相当できるやつだなと思ってな」
「ふふっ。キミほどの者にそう言われるのは嬉しいね」
レックスは、好々爺といった表情から真面目なものに変え、改めてウィルヌスを見据える。
「……キミが今回柱を消滅させたのだね?」
「ああ。結果的にそうなっただけだがな」
「詳しく話を聞かせてもらっても?」
「ふん、それはアムアレーンが話した通りだ。異形を倒し、しばらくした後、音もなく目の前から消えた」
「……そうか」
レックスは深くソファに腰かけ、腕を組んで考える素振りを見せる。
「やはり、柱の消滅には最奥にいる異形を倒さなければならないのだね」
「ああ。そうすれば柱は消滅し、その地には平和が訪れるだろう。……それがいいことか悪いことかはともかくな」
「ウィルヌス?」
ウィルヌスは最後の方、呟くようにそう口にした。
レックスは考えを纏めているところなのか、ウィルヌスの放った最後の言葉に気づいた様子はない。
「……ありがとう。この話は、今後の問題の解決に役立たせてもらう。貴重な時間を使わせて悪かったね」
「いや、ううん。気にしなくていい」
ソファから立ち上がったレックスは、私たちの方へ手を差し出した。
私たちも彼に倣い席を立ち、レックスと握手を交わす。
「これからのキミたちの活躍に期待しているよ」
こうして私たちはサーミでの報告を終え、ウィルヌスの冒険者証を発行してから組合を後にした。
ちなみに、サーミでの魔物退治に関しては紅焔の翼の報告を待って、査定の後、貢献度に反映させるとのことだ。
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