第八節:疲労と絶望の中で
最初の救出から一時間以上は過ぎただろうか、ここに至るまで、近くで探せる場所を探し出して救出したがその人数は、二十数名程度に過ぎなかった。
国会議事堂の衆議院議場内は煌々と明かりがついており、議場の中央に焦燥と疲労感を滲ませ、不安と恐怖に震え、座り込んでいる者、身を寄せ会いむせび泣いてる者、それらの政府職員と議員達の目には絶望の色が溢れている。
だが、ここで終わりではなく、まだ道半ばであり、全員が助かるにはまだ移動する必要なのだ。
なので、ここで立ち止まっている訳には行かなかった。
疲れた身体を押して総理は全員の前の壇上に立つ。
「皆聞いて欲しい。この惨劇の中、良く生き残ってくれた。だが、まだ終わりではない。全員が知っての通り通信が繋がらず、外の状況は未だに詳細はわかっていない。救出部隊が来るかもわからない状態だ」
こう述べた後、尾上総理は注意深く、静かに前に集まった全員の顔を見渡し、話しを続けた。
「ここの場所に極秘の隠し通路がある、今からそこを通り皇居下に有る、公にはされていないシェルターに向かう。そこならば食料や休める場所も有る、そこに避難し体制を立て直そうと思う。家族や恋人を心配している者もいるだろう当然だ。私もそうだからだ。しかし、我々は今は団結し、未知の脅威に立ち向かう覚悟を持た無くてはならない。これは私達へ、いや人類全体の試練である。歴史を振り返れば今までも絶望的ば状況はあった。しかしそれを乗り越えて人類は発展してきた。この様な状況でも希望は必ず有る。それを信じて全員で前進しようではありませんか」
暗鬱な現実と残酷な状況が、助け出したした人々の心に冷たい鉄の爪を立てる中、集まった全員に厳しく悲惨な状況を伝え、それでも希望を与え生残る気力を与えたかった。
しかし希望は必ず有る、そうは言ったものの確固たる根拠はなく、空虚な言葉なことは総理自信が一番理解している。
それでもそう言い放った総理の言葉は力強く、目には覚悟がみて取れた。
全員の疲労感と絶望感はピークで有ったがすがるもの欲しさか、はたまた総理の言葉が響いたのか分からない、しかし反対する者もなく皆が頷き総理を見ていた。
まるで嵐の中に立つ船を導く北極星のように。
反対する者が居ない事を確認した総理は、集まった皆の前で重厚な扉をゆっくりと開ける。
「総理、私が先頭で宜しいですか?」
国立はそう伺う、普通であれば聞くまでもなくspどちらかが先頭を行くべきでは有るが、秘匿性の有る通路だと認識してる為に一言入れたのだ。
総理は頷き、それを見た国立は異形の出現を警戒しながら先頭をを進みだす。
扉がゆっくり開かれた先には人一人分程の螺旋階段になっていて、天井は其所まで高くはなく上部の照明に照らされている。
地下に向かって四階分程降りると、そこには四畳程の空間があり通路が接続されていた。
通路上部はそれなりに高く、埋め込まれた明るい照明が左右に均等に配置され、その明かりは通路全体照らしている。
その光景は深遠なる未知への探検を思わせた。
通路は横幅は大人が二人並んで歩けるほど広く、通路の両側に等間隔で配置された照明機器は、下方へと延びており、その明かりは通路内を均等に照らし出している。
奥行きはかなりの長さを持ち、通路内に漂う古びた匂いは、この場所が長い間秘匿されていたことを物語っているように感じられた。
皆、この長大で緩やかな下り坂に異形の存在に怯え警戒しながら、身体を引きずるようにゆっくりと歩んでいる。
身体は疲労と心労によって重く感じられ、歩行自体が厳しい状態であったが気力で歩いているいるようだった。
「ここは電気が来ているのだな? これも国会議事堂の予備電源から来ているのか?」
佐藤大臣は、静かながらも問いかけのような独り言を口にしている、その顔からは疲労が見て取る。
しかし、佐藤大臣の疑問に答える者ははおらず、彼の周囲では無言のまま、歩みが続いていた。
四十分ほどの道のりを歩き続けた一行は、その先に頑丈で堅牢な鋼鉄の大きな両扉が閉じられているの見つける。
この扉は、その存在感からして非常に堅固であることが伝わって来た。
扉の両側にはスライド式の鉄製の閂が、こちら側に三つ取り付けられており、その頑強さが一層際立っている。
「閂がこちらに付いている? 普通逆では無いのか?」
佐藤大臣が不思議にそうに呟くのも当然である、普通は閂は鍵の役目しており、内側に侵入されない為にする物だからである。
「そう、驚くのは無理も無い。この先はまだ、上部からの集合ホールだからな。ホールには上部に続く階段、それの逆側は下部続く階段になっている」
総理は決然とした表情で答えると、一つ二十キロ位はある閂はを国立とずらそうとしていた。
それを見ていた佐藤大臣と動ける職員も手伝う。
三つの閂は力強く、しかし慎重に閂を横に移動させる一行の手で壁に収まっていく。
閂が壁に三分の二ほど入り込むと、中途半端に出ているのだが、まるでこの位置が計算されたかのように、それ以上は進まなかった。
国立が両手で閂の抜けた扉を押すと重厚な扉はゆっくり動き、全員の眼前に照明に照らされた、かなり広い空間が現れた。
警戒しながらも部屋に全員が入って行く。
周囲を見渡すと、その部屋は数十畳はあり高さは五メートル程ある。
扉を出て左側が地上に上がるであろう階段が見え、右側にはまたも、鋼鉄製の大きな扉が閉じていた。
総理は一旦左側の階段横にある台座を確認して安堵した表情で戻ってきて、右側に向かった。
「下への道はこの扉の向こうだ」
総理は静かにそう言って神妙な表情で扉の前に立っている。
総理のその言葉に、一同はこの先に漸く休める所があると思うと、こんな状況でも多少の希望を胸に抱いていた。
融合の触 @hom00
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