追放&ざまぁショート・ショート

@HasumiChouji

追放&ざまぁショート・ショート

 もう、30年以上……40年近くになるのか……。

 あのバブル経済の末期、いわゆる「若手実業家」と呼ばれていた俺は、1つの会社を立ち上げた。

 その会社は、莫大な利益を上げ……しかし、気付いた時には、金だけ出して口は出さないと思っていた大企業から送り込まれた役員達が、社長だった俺への罠を張り巡らしていた。

 俺の子供が読んでるラノベとやらで言うなら「追放もの」だ。

 俺は社長の座を追われ、俺がアイデアを出して大成功した会社は、大企業のいいようにされ……まるで、下衆野郎どもに、自分の恋人を寝取られたり、実の子を手籠めにされるのを自分の目に見続けながら、しかも、何も出来ないも同じだった。

 そして、俺の立ち上げた会社は案の定潰れ……しかし、「ざまぁ」とは行かなかった。俺を追放した、大企業から送り込まれた糞爺ィどもにとって、その程度の「アクシデンド」など経歴上の汚点にさえならず、奴らの地位は安泰だった。

 現実はラノベとやらみたいに巧くは行かない。

 そして、俺の会社を乗っ取った挙句に潰した奴らは、別の新たなる餌食を漁り……きっと犠牲になったのは俺と俺の会社だけじゃないのだろう。

 自分の恋人か実の子にも等しいものを凌辱されただけじゃない。凌辱された挙句に殺され、しかも、犯人どもは罰を受けず、更なる犠牲者が出るのが判っているのに、クソどもを止める手段さえ無い。

 最悪だ。

 だから……俺も、最悪の対抗策を取らざるを得なかった。


「普通に会社員をやっていれば……そろそろ年金生活に入る頃かな?」

 俺は、あの人生のズンドコで契約した奴に、そう言った。

「では、そろそろ、引退されますか?」

 の野郎は、そう答えた。

「しかし……お前と契約したせいか……ネット上では、俺は悪魔おまえ扱いされてるようだな」

 奴との契約で、俺は、日本経済界の重鎮となり……何人もの総理大臣の経済顧問を勤め……。

「しかし、やり過ぎたんじゃないのか? 確かに、俺を追放したあいつらの会社はボロボロだが……」

「何がおっしゃりたいのでしょうか?」

「いや、あいつらに復讐ざまあするにしても、代りに日本経済がボロボロになってしまうのはな……」

 悪魔こいつと契約して以来、俺は、こいつの指示通りに動いてきた。

 そして……俺の財産が増えれば増えるほど、何故か日本経済は奈落の底に堕ちていった。

「この後に及んで、同胞の未来を心配されるのですか? 同胞愛や愛国心が善なるモノかは議論の余地が有りますが、仮に善なるモノならば悪魔わたしと契約した以上、貴方自身の足で善を踏み躙る事を覚悟されていた筈でしょう?」

「いや、そうじゃなくてだな……。日本経済がマズい事になれば、ウチの会社も日本経済の一部である以上……」

「そこは考慮してあります。貴方の願いは『自分を追放した奴に復讐した上で金持ちになる事』でした。2つの願いと解釈すべきものを無理矢理1つの願いにした以上、多少の副作用は仕方ありません」

「おいおい、日本経済が沈んで、俺の財産は無事って、どう言う事だ?」

「はい、10年ごとにダミー会社を経由して、世界各国の大手証券会社と、このような契約を結んでいました」

 悪魔は、そう言って、株式の売買契約書を見せた。

 その内容は「10年後に、この株式を売る」という内容だった。

 10年前の基準なら……結構な「お買い得」価格で……。ただし……今の基準では話は別だ。

 そして、それらの株式は、全て日本企業のもの。

「この株式は、いつ買ったんだ?」

「実際に売る直前に買います。今やので、すぐに買い集める事が出来ます」

「まて……1010?」

「はい、。そして、

「お前……一体全体、これまで何をやってきた?」

「ですので、日本企業が1つ残らず、ゴミ同然の価値しかなくなれば、あなたの財産が増える状況を作り上げました。契約の内容は『あなたを追放した者達に復讐した上で、あなたを金持ちにする事』で……たまたま、あなたの復讐の対象は、日本企業の幹部という共通点が有りましたので」


short:

投機用語では、投機対象が値下がりすればるほど売り手が儲かるような売買契約の事。

日本語では「空売り」とも呼ばれる。

例えば、ある株券を一定期間後に空売り(short-selling)する契約をした場合、実際に売る際に、その株券の価値が下っていればいるほど、売り手の利益は大きくなる。

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