ファーストピアス

 初めて開けたピアスはどれだったかな。

多分右耳なんだけど。

耳たぶのこれかこれだった気がする。


初めてのピアスの場所は今になってはもうおぼろげにしか分からない。

どうやって開けたかな。

多分ピアッサーだと思う。

あの当時だから安全ピンって可能性も有るけど。

だけど初めてピアスを開けたきっかけは覚えてる。


 高校二年のあの日、私は失恋をした。

大失恋だった。

何をもって「大失恋」と言うのだろうか。

想っていた「想い」の強さを言うのだろうか。

それとも想っていた期間が長いほど相応しいのだろうか。

それか、どれほど「落ち込んだ」が重要なのだろうか。


それならどれだって当てはまる。

だから苦しくてたまらなかった。


何が、

どう違ったら、

何が足りなくて、

何がいけなかったのか。


結果は既に出ているのに、そんなタラレバがどんなに言い聞かせてもグルグルと心を締め付けた。


答えの出ている事に、こんなにも囚われている私はとても弱い人間だった。


時間が経てば解決する。

じゃあそれはいつまで?


パーっと遊んで息抜きしようよ。

どんなに楽しく遊んだ所で、遊び終わったら一人にするでしょ?


そんな弱りきってどうしようも無い時だった。

元々ピアスに憧れは有った。

それでも痛いのは嫌で、実行しなかった。


百均のチープなスタンドミラーに写った自分を眺めていたら「そうか私ピアス開けたかったっけ?」


そう思ったらふわっと心が軽くなった。


ピアスを開けた。

ただそれだけ。

それだけの事が、他の何よりも私を慰めた。


昨日までの私は死んだ。

今の私は誰も知らない私。

あの人も知らない、新しい私。


不思議な高揚感に救われた。


 以来、私は何かを失う度にピアスを開ける。


何かの本で

「過度なピアスは自傷行為の代わり」

だと書いてあった。

咄嗟に「マジか」と驚きはしたが

内心は「道理でな」と納得していた。


もうあの時の様に、急激に心が軽くなったりはしない。

それでも「次はここだな」といつだって目星を付けている。


ガチャガチャとうるさいくらいに着いているピアスを眺めて

「私の心にはこんなにも穴が空いているのか」

と少し悲しくなる。

それでも止められない。


昨日までの私を殺すことを。

新しい私になることを。

針の痛みで誤魔化すことを。


今日だって、いつだって。

「痛いよ、痛いよ」

私の心の声は誰にも届かない。

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原体験 花恋亡 @hanakona

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