忘れられた人

忘れられた人は、日々をこの部屋で過ごす。

何もない四角い部屋で。

出口はなく、白く囲われている。

そこでその人は体操座りをして過ごす。


とある研究者が"食事も睡眠もしなくて良い安全な部屋"を作った。その実験の参加者として、その人はここに望んで入った。

「どうせ他人に忘れられてしまうくらいなら、自分は忘れないように、これ以上何も覚えたくない。そうすれば忘れないと思うから。」

というのが志望した理由だった。

研究者にとって理由はどうでもいいので、すぐにその人を部屋に入れた。だが研究期間の間に核戦争が起こって、世界には人間が一人もいなくなった。それでもこの部屋は安全だった。


その人は今日も体操座りで一日を過ごす。楽しい思い出を何度も何度も何度も何度も思い出す。

その人は笑っていた。

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空想日記 @slwisdan

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