第3話

買い物を終え、アジトのある山奥へ戻って来た。

付近がなんだか騒がしい。あの二人の喧嘩かとも思ったが、そうではない様だ。

ステルラがノクスの腕を必死に掴んでいる。


スリジエは何処だ?アジトの中だろうか。


「ハイマ!!!!」


俺に気づいたノクスが、ステルラの腕を解き、焦ったように駆けてきた。

ただならぬ雰囲気に、嫌な予感がした。


「...っスリジエが!!!ゲホッ...」


焦っているのか、咳きこんで苦しそうだ。

これでは話が聞けない。


「落ち着け。一体何があった?」


呼吸を整えながらも表情は険しいまま。

それを見て、俺も眉をしかめた。


スリジエが人間に捕らえられたらしい。

曰く、狩った獲物をアジトに運び、狩場にいるスリジエの元に戻ると、そこに彼女はいなかった。残っていたのは争った跡と彼女の鉄扇、そして覚えの無い複数の人間の匂い。


何故こんな山奥に人間が...。


「____俺っ」

「待て!」


今にも走り出しそうなノクスの腕を掴み引き止める。


すぐにでも助け出したいが情報が無さすぎる。

エイビスか?いや、それなら施設の匂いが微かにでも残るはずだ。今の段階で考えられるのは奴隷商か。

なんにしても、できるだけ早く情報を得なければ。


「今はまだ人間たちが出歩いている。獣人が街へ行くのは危険だ。今夜から捜索する。」


不安げなステルラと、やるせない表情を浮かべるノクス。

二人と共にアジトに戻り夜を待った。



その夜。

全員が狼の姿となり、狩場に残されていた匂いを辿る。獣人の姿よりも狼の方が嗅覚が優れているためだ。

街の中で辿っていた匂いが分かれていた。そのためノクスとステルラ、クロノスと俺の二手に分かれてそれぞれ捜索を続ける事にした。


暫くすると、遠吠えの合図が聞こえた。どうやらノクス達が何か見つけた様だ。

二人の元へ向かうと、そこは街外れに佇む洋館だった。

門番らしき男が二人。正面から入るのは無理そうだ。


裏に回り、三人は茂みに待機させる。

俺は猫に変化し、塀を乗り越え敷地内に侵入した。

自身の黒い毛並みは夜陰にまぎれた。


ある窓から話し声が聞こえた。近づき耳をそばだてる。


「しっかし今日来たあの客はえらく金払いが良かったなぁ!」


「今日仕入れたばかりの獣人のメスを、即決で大金払って持っていったな。」


やはり奴隷商だったか。

今日仕入れた獣人とはおそらくスリジエの事だろう。

まさか既に売り飛ばされていたとは。

買った者が分かればいいのだが...。


「あれは容姿も良かったし、獣人は珍しいからな!」


「それにしたってあんな大金。怪しげな野郎だったな。身形的に呪術系かなんかだろ、こわやこわや。」


「奴隷商の俺らが何言ってんだ。来る客にまともな奴なんていやしねぇよ。」


「違いねぇ。」


酒に酔っているのか、気分良さそうにゲラゲラと騒いでいる。

これ以上得られる情報は無さそうだ。だがスリジエを買ったのはおそらく呪術師であろう事は分かった。そいつの行方は分からないが。


「誰かいるのか!」


っ!

引き返そうとしたところで外を巡回していたであろう男に見つかってしまった。


「にゃ~...」


「なんだ、猫か。こんなとこにいても餌なんか無いぞ。シッシッ」


猫の姿のおかげで怪しまれず、胸をなでおろした。


待機させていた3人の元へ戻り呪術師の捜索に当たったが、なんの情報も得られず朝を迎えてしまった。

人間たちが起きる前には街から出なくてはならない為、心ならずもアジトへ戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Croix 華柳 亜煉 @alen42

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ