おまけの物語【陽太さんの贈り物】

「柚結さん。あの……これ。遅くなりましたが、えっと嫁入りの記念です! 受け取ってくれる?」

「うふふっ、記念ですか?」

「ええ」

「ありがとうございます」

「……町で流行りとか……聞いたんです。あの、西洋の服です。柚結さん、一着ぐらい持っていても良いでしょう? きっとあなたにお似合いだと思うんです」

「綺麗……。とても綺麗な桃色の布地ですね。ありがとうございます。……すごく嬉しいです、陽太さん」

「ふはあっ、喜んでくれて良かった。柚結さんのその笑顔っ! 俺はその可愛い笑顔が見たくって……」


「あと、二人でおそろいの」

「おそろい? おそろいですか?」

「はい」

「わあぁっ……!」


 広げた両手に陽太さんから手渡されたのは……、見事なかざり櫛でした。細工にきらきらとした桃色や朱色あかいろ翆色すいしょくの小さな石が嵌められています。


「俺のは同じ工芸作家の作品で帯止めの蜻蛉玉とんぼだまです」


「嫁入り道具はあとで一緒に選びに出掛けて揃えましょう」

「あのっ、陽太さん! 大丈夫ですっ。私には充分ですから。今使わせていただいているもので十分なので」

「前にお話した通り、あの部屋の家財は亡くなった俺の母のものばかりなんです。柚結さんは柚結さんだけの自分専用の新しいものが欲しくはありませんか?」

「いえ……。私なんかがお母上様のを使わせていただくのが心苦しいのですが。あの、皆さんがですね、お嫌ではないと言うのであれば私はそのまま使わせていただきたいです」

「柚結さんっ」


 気づけば私は陽太さんにぎゅっと抱きしめられていました。


「家具たちも喜ぶよ」

「陽太さん兄弟の御母上様の思い出の家具たち、私……これからも大切に使わせていただきます」

「……あのね、柚結さん」

「はい。……陽太さん?」


 陽太さんと私の足元に、小さな小さな妖怪たちが踊って回り出しました。

 いったい、いつの間に現れたのでしょう?


「これはこれは。母さんの箪笥や鏡台なんかはどうやら付喪神になったらしいね」

「まあ、付喪神ですか!」


 付喪神は大切にされてきた道具などが妖怪化したものです。


「付喪神たちね、柚結さんにこれからもよろしくと言ってますよ」

「付喪神様たち、こちらこそよろしくお願いいたします」


 陽太さんから素敵な贈り物をいただきました日、鬼狐神族の館に楽しい仲間が新たにまた加わりました。




    おまけ♡おしまい♪

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私は生贄供物で鬼狐神さまの花嫁のはずですが、優しい彼に大切に甘々溺愛されちゃうなんてきいていません!! 桃もちみいか(天音葵葉) @MOMOMOCHIHARE

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