エピローグ

 あの日から約半年が過ぎ、もう気づけば三月後半で今日が終業式。

 今日で俺達は一年生としての生活が終わる。俺らの周りは問題なく進級。

 外もだいぶ暖かくなり校庭には桜がほころび始めていた。今日でこのクラスも終わりになる、同時に『都島恵美』としての恵美さんも今日で終わりだ。

 最後のホームルームが終わり、そんな温かくなり始めた外の風を感じながら徐々に減っていくクラスメイトを横目に俺は蒲生を誘って帰宅しようとした。

「桜宮とも今日で最後か。お前、気付けば学年期末考査も一桁代の順位だったしな。俺も理系行くけどお前とは順位が違う。二年は違うクラスかも」

 一年間一緒に過ごしてきた蒲生とも今日で一緒のクラスは終わりだ。

「分からないぞ、またお前と一緒のクラスかも知れないし」

「まあお前も今日で『あの』関係終わりだからもう今から楽になれよ」

「うるさい。外出るまでが一年生。それまで黙れ。行くぞ」

 そう言いつつ、小声で気遣う蒲生と一緒に最後となる教室を出ようとした。さようなら。一年間お世話になった教室。四月からはまた新入生が入るだろう。

 その時だった。

「あらら、二人揃って私の事は無視なの? 凄く可愛い妹さんを置き去りにする気なのね」

 あのお馴染みのウザい声。横を見ると腕を組んで睨みを利かせていた。

 その横には恵美さんと、成績で学年主席を維持している本庄さん。どっちも変に作り笑いしている。

「何が無視だよ。学校に出るまでが一年生。まだ一年生は終わってない」

「一年生であるよりも、兄妹の愛情の方が大事じゃないの? お兄さん」

 その顔にはニヤけついた表情。

「まあまあ優子。もういいよ。私たちもホームルーム終わった時が一年生の終わりだと認識しているから。もう兄妹バレても大丈夫だって。『和人君』とは、文理が分かれるから二年生では絶対にクラスが分かれるからもう安心しているよ、ね、『和人君』」

 やけに恵美さんが強気だ。本庄さんにはもうバレてるのか。

「本庄さんにバレてるけど、最後までかくまってと言っただろ」

「あらら、私は良いのよ。二人が同じ屋根の下で住んでいることなんてクラスの半分以上はもう既に知っていたわよ。皆大人だし誰でも義妹を探られるのは嫌なことだからね」

 堂々と自信を持って俺に絡んでくる本庄さん。

「さあ、私達も行きましょうか。二人にはこれからやって貰いたいことがあるからね。恵美、夢子。一緒に行こう」

 赤川さんが俺たちを仕切りつつクラスを後にしていく。五人で教室を出て、校舎の外に出た。もうすっかり校庭の桜もほころんで今にも桜が咲きそうな雰囲気の校舎。二年生になると俺と蒲生は理系で恵美さんと赤川さんは文系。

「さーて、二年生になってのことだが・・・・・・」

 優子がしきりに言い出す。

「私達二年生になったら恵美のために同好会立ち上げたいの。貴方たちも分かっているとおり恵美の絵は凄く上手い。お兄さんのプレゼントのお陰で、僅か半年で絵上手くなったの。だからね」

 まさか何を俺らに協力しろというのか。

「ほら、言いなよ、恵美ったら。いいお兄さんだから」

 本庄さんも恵美さんを煽り立てる。何が言いたいのか。

「和人君、私ね、二年生になったら、文化祭でイラスト関連の出し物したい。それでね、優子も夢子も協力してくれるって。夢子も実はオタクだったから」

 今から準備する気か。そのための同好会。俺は一体何をすれば良いのか。

「だからさ、二人はその同好会に入れば良いだけだよ。うちの学校は五人以上いない

と同好会は立ち上げられないの。だからあんたたち二人はそのお手伝い。分かった?」

「なんで、俺が入るの・・・・・・嗜好が違うだろ」

「あんたね、ちょっとは私に感謝しなさいよ。こんな学校きっての美人と同じ同好会で、貴方の大好きなオタク趣味を共有できる。どれだけ恵まれているか分かるの?」

 よく考えてみれば、蒲生みたいなオタクがこんな美少女取り込まれるなんて、最高過ぎるしそれこそラノベの世界。

「何か俺を利用しているみたいだけど、その言い方」

「あんた何よ、蒲生君のオタクの能力を活かしてあげたいと思っているの。あんたの知識

を活かせるのだから問題無いでしょ」

「蒲生君も優子も落ち着いて・・・・・・」

 またこの二人の漫才染みたケンカが始まった。本当蒲生は別の意味で赤川さんに気に入

られているみたいだな。

「じゃあ恵美、今日初めて桜宮君と下校するでしょ。もう二人で堂々と歩けるし、今日ぐらい二人になったら良いよ、蒲生君は私が相手するから」

 恵美は照れている。

「まあ、もう良いけどね。和人君。帰ろう」

 そう言いながら俺は恵美さんと、蒲生は赤川さんや本庄さんと帰ることになった。

「じゃあ蒲生君には私と夢子の方から話しておくから恵美は和人君と上手く関わってね。春休みも遊びに行きたいからまた声かけるね、じゃあね!」

 そう言いながら皆帰ってしまい、俺は恵美さんと取り残された。

「じゃあ帰ろうか」

 俺は、恵美さんとゆっくり歩き始めた。


 何時も通学する大阪城のほとり。毎日無機質に歩いて通学していたが、今日だけは違った、もうこれからは恵美さんの動向を考えなくていい。

「こうして歩くと、やっぱり恥ずかしいね・・・・・・」

「慣れてないだけかも知れないね。俺は何というか、もう恵美さんに顔色うかがわなくて良いと言うか、歩きやすくなったな」

「和人君とももう半年以上。もうすっかり家族のように接しているけど、学校ではこれからと言ったところだね」

 やっぱり恵美さんは可愛いと美人を兼ね備えている。俺の方を見つめる仕草が特に。

「それでだけど、例の同好会って詳しくは?」

「あれね。私だけでなく優子も夢子も絵を描くのが好きだから、文化祭までに何かやれないかなって。私も芸大のコンテンツ部門志望でしょ。入学までに対応できるよう文化祭までにアニメ作品かゲーム作品なんかの一つでもやった方が良いと思うことを優子に言ったら、それで暴走して・・・・・・だから和人君と蒲生君を振り回して作品をチームで作ろうって話になって」

 遠大な計画だ。本当にバイタリティの塊だ、あの人は。

「その同好会で何をしようかとか、具体的にプランはある?」

「さあね。まあ原画を沢山描いてその展示とかしたいなと思って。アニメ製作はあまりにも無茶だと思うね。せめて自作ラノベの挿絵とかかな」

「現実的だね。蒲生にラノベ文書描いてもらうとか」

「考えるだけでも色々出来るわね。オタクコンテンツの製作は」

 恵美さんは自信持っている。もうこの趣味を本気にしてから、絵の上達もかなり早い。それ以外のことも興味を広げている。

「中途半端は嫌だからね。やはりあの大学のぞけてよかった」

 何をするのだろう俺は。ただ同好会名簿の名前を貸すだけにしかなりかねない。皆のオタクの熱意に俺はついていけなくなっている。俺も最低でもラノベの読破が必要だ。二年生になると図書館に入り浸りだ。

「俺も、オタクになって見せるよ」

「血の繋がらない兄妹揃ってオタク。不思議」

 何かくすぐったい。ここまで恵美さんと関係が深まったことを誇りに思う。

 そうしている間に俺たちは、父さんの工場の前にまで足を運んでいた。せめて今日が終業式だから工場に寄っていこう。

 工場に行くと、従業員らが相変わらず金属製作をしている姿があった。恵美さんが家族になってすっかり顔を出すことが減ってしまった。

よく見渡すと、そこには青い作業着を着た春子さんが何やら忙しく動いていた。

「あら恵美、和人君。帰っていたの? 二人一緒なの? 今日が終業式で二年生からはクラスは文理に別れるしもう気にすることないし、一緒に帰って来たでしょ?」

 図星だ。それにしても春子さんが作業着姿になるだけでも、相当進捗があったな。

「和人、帰っていたのか」

 父さんも工場入口の前にやってきた。

「見ての通り、春子さんも会社の従業員。今、ネジなど部品作成の修行中」

「お母さん、本当に大丈夫なの? 機械いじりしているの?」

「そうだよ、まだ金属作成は上手くいかないけど、やってみると楽しい」

 もう春子さんも工員そのもの。会社に完全に溶けこんでいる。

「春子さんは何でも出来るしね。経理、法務、営業。会社の事務はパーフェクト。法律にも詳しいし、特許絡みの件で滅茶苦茶経営にプラスになっている。俺も技術に特化できる」

 そこには満足そうな父さんの姿があった。父さんも再婚するまでは相当無機質で暗い表情で会社の業務を淡々とこなしていただけであったがその姿はもう既にない。父さんの足取りは表情などでよく分った。

「和人坊ちゃん。今日が終業式? 物凄く可愛い妹連れているじゃないか? 発展あったの?」

 恥ずかしい質問が飛んでくる。

「あの、単なる家族です。すみません、変なこと言わないでください」

 俺は顔を赤くする。恵美さんも恥ずかしそうにする。

「冗談だよ。でもなお前さんも学校楽しそうじゃないかよ。前みたいに直ぐに工場でずっと一人黙々作業する姿はもうないし、俺は寂しかったぜ」

 俺は従業員にも心配されていたのか。

「でも春子さんが社員になってくれて雰囲気変ったぜ。あんな美人妻が工員になりたいと言った。俺たちは唖然としたけどな。でも春子さん、凄く謙虚で本当に黙々と頑張って製作をしている。それで法務は完璧。この会社も良い流れになるぜ!」

 前は本当に錆び付いたような空気だった。でも春子さん一人の存在でここまで変わるとは思わなかった。

「和人も恵美ちゃんも、もう家帰るだろ。後は頼むな」

 父さんはそう言いながら仕事に戻った。俺たちはそのまま家に帰り着き、残っていた僅かな冷や飯と鶏肉でオムライスを作り、二人で食卓を囲んだ。


「いただきます」

「いただきます」

 二人だけの食卓。テーブルにはオムライス二皿とカップ二つ。向かい合わせに座る俺と恵美さん。二人だけの空間は本当にひさしぶり。

「お母さん、凄く生き生きしていた。再婚前とは全然違う・・・・・・」

「本当によかったね恵美さん。春子さんが元気になってくれて」

「うん、何時も私に言うけど離婚前のように金だけ渡すから俺の言いなりになっておけと言われるよりも低所得で良いから自分で稼ぎたいって・・・・・・お母さん、自分で給料貰って正社員として満足しているみたい」

 半泣き状態になる恵美さん。また一つ恵美さんを満足させることが出来た。

「私達も、幸せにならないとね。お母さんがあんな幸せそうな顔しているなら尚更だね」

「じゃあ二年になったら何をする? 大学受験勉強も本格化するし、恵美さんも一応数学苦手だから文系で芸術大学目指す。だったら同好会立ち上げでさっき赤川さんの言っていたことをしないとね」

「そうね。私も絵を描くのに没頭しすぎで、学年順位は五十番以下に転落したわ。でも私の気持ちは楽だしお母さんにも逆に褒められた。好きなことが見つかって良かったと」

 俺は、とっさにスマホを取り出し、恵美さんの描いた最近のイラストをデータで見る。ミクシブに恵美さんは自作の絵をネットに投稿している。

「こんなに上手ければ成績は落ちるけど、本当にラノベ挿絵出来るほどだしね」

 俺は恵美さんの最近描いたイラストをスマホで見た。季節だけあって春をイメージした可愛い女の子のイラストが一枚。爽やか。この画力なら何でも出来そうだ。

「和人君、スマホを見すぎない。食事中」

 恵美さんに怒られた。本当は恵美さんも照れているのだろう、あまり俺にはイラストを見せないが最近ずっと絵を描いているし。

「これからのこと考えると本当に楽しいことばかりだね。和人君は機械の方でしょ。これから引き続き泰信おじさんのお手伝い? 名前借りの同好会部員で」

「分からない。まあさっきも従業員らにあんな言われ方したし、もう戻るつもりなど一切ない。それに理系は勉強も文系よりハードだし。同好会も行かないと赤川さんにウザい態度されるし何より蒲生が不憫だ。やっぱり俺も勉強と同好会の手伝いかな」

 これからのことを考えつつ、恵美さんと久しぶりに穏やかな表情で離しつつ昼食を終えた。そして後片付けをした。

「和人君、今日快晴だから、二人で大阪城公園でも行かない?」

 今日は恵美さんの方から俺を誘う。

「良いよ。天気良いし勿体ない、じゃあ今から行こう」


 昼の後片付けをして俺と恵美さんは玄関に向かった。

「今日は珍しいな恵美さんから誘うなんて」

「ずっと前に貴方に質問されたとおり、大阪城に行ってみたかったの。近いけど全然行かなかったしね。もう今日からは二人で行動してももう気がかりないし」

 クラスが分かれるだけでここまで人は変るのか。再婚当初の暗い恵美さんの姿はもうここにはいない。これから恵美さんとは色々な幸せを共有できる。そう確信した。

「和人君、左手出して」

 唐突に恵美さんは俺に手を出せと。これは、もしや。と思った。

 その瞬間、恵美さんは右手で俺の左手と手を合わせた。

「和人君。今までありがとう。これは和人君と私の繋がりの第一歩だよ。『ライク』から第一歩を踏み出せたと思ってね」

 恵美さんの手は温かい。そして柔らかい。俺の心臓は最高にバクバクした。

「和人君、変なこと考えないでね。まだ第一歩だから」

「異性と体を接触させたら、誰でもこうなるよ。俺も慣れてなくて心臓が震え上がっている。恵美さんこそ男性が苦手というのは克服出来たようだね」

「そうだよ、和人君のおかげで。男性と手を繋ぐのも初めて。私も緊張している、さあ行きましょう!」

 俺は繋いだ手を握り、軽やかに大阪城公園に向かった。

 爽やかな顔をする恵美さん。凄く可愛い。噂によれば恵美さんは学年一の美少女。

 こんなに可愛い女の子が義妹だなんて冷静に考えれば夢のようだ。

 その義妹とこうして手を繋いで歩いている。

「自己紹介の時に話したことは忘れていないよ! 大阪城公園に行ってみたいと言ったことを。堂々と二人で行きたいと! その約束を私は果たしてあげたよ!」

「二人で行くとは約束していないぞ!」

「冗談だよ!」

 外はもう春。大阪城公園は春の賑わいで充満している。

 相変わらず恵美さんとは手は握りっぱなし。義妹は法律上の妹だが血は繋がっていない。

 血が繋がらない妹と家族以上の関係を踏み出した第一歩。


 そしてこれだけは言える。義妹との生活は楽しい。幸せを掴めることを確信したから。


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義妹になった同級生の美少女と、幸せを模索していく日々 @sumiyosinatsuki

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