未来はゾンビ~半端モノ殺害予告~

渡貫とゐち

撃つ時は躊躇うな!


「……噛まれたか?」

「分からねえ……ッ」


 唐突なパンデミック。

 一体なにが発端だったのか……――原因は?


 それらを究明する前に、人々は自我を失い、命を落とし、ゾンビとして世界を徘徊する。


 生者を見つければ猪突猛進に襲いかかり、肉を噛んでは仲間を増やしていく……、あっという間にその数は増えていき、もはやゾンビでない者の方が少ないくらいだ。


 町も自然も破壊されている……つまり、逃げ場が限られてくる。

 着実に、追い詰められていた――。



 デパートのバックヤード。

 在庫品が積まれた倉庫部屋の中で、二人の青年が壁に背を預けている。

 その壁も、亀裂が走っており……今にも崩壊しそうだった。


 既にゾンビが現れ、暴れた後なのだろう……。ここを巣としている個体がいれば、戻ってくる危険性もある。だが、迂闊に外に出れば、別のゾンビに見つかる可能性もあり――今は身を潜めるしかなかった。

 体力の回復もしなければならない。


 疲労と怪我がある。二人とも血が出ているが、ついさっき、崩れた瓦礫に巻き込まれたからだ――血の量が少ないのは軽傷だからだろう、しかし――……今だけは、そうであってほしい。


 この血は、ゾンビに、噛まれたからだったとしたなら……



「もしも――。……俺がゾンビになり始めたら……、――遠慮なんてしなくていい、躊躇なく撃ち殺せ……いいな? 拾った拳銃があんだろ? それでやれ……構わない。無事だったお前を巻き込みたくねえんだ」


「……でも、」


「お前は、生き残らないといけねえはずだろ。誰を助け出すために、ゾンビがひしめく危険な場所まできたと思ってんだ……っ。ここまで、何人の仲間を犠牲にしたと思ってる……ッ! ここでお前まで死ねば、犠牲が無駄になる……。だから、なんとしてでもお前だけは先へいかせる!! 絶対に、恋人を救い出してこいッッ!!」


「……ああ、分かってる」


「なら、やるべきことは分かってるよな? …………今後、俺がゾンビになり始めたら、」



 ――パァンッッ!!!!



 と、体が固まる甲高い音が響いた。


 その音で、どこに潜んでいるか分からないゾンビを呼び寄せてしまうかもしれないが……そんなことよりも。



 ……さきほど、警察官から拝借した銃だ。

 親友が持っていることは知っていた――撃て、とも言ったが……しかし。


 ……だからって、鵜呑みにして、本気で撃つか?



「――ら、その拳銃で撃て……とは言ったが、早過ぎるだろ!! まだ俺、ゾンビになりかけてすらいねえよ!!」


「……あれ? 空砲……? あ、なんだ、弾を入れていなかったのか……」


「躊躇するなとは言ったけど、普通は抵抗感があるものなんだが……まったくなかったなっ! お前の引き金を引く指はこういうことに手慣れてんのか!?」


「……引くだけなら震えていてもできる。指が固まっていなかったのは……、うん、慣れ始めたのかもな……この状況に」


 世界を崩壊させたパンデミックに。


 常識を失ったサバイバル生活に――。


「ったく、弾が入ってなくて良かったぜ……、ゾンビになっていないまま殺したら、お前も気にするだろ」


「いや、全然」


「おい」


「だって、噛まれたかもしれないんだろ? じゃあ感染『しているかも』しれない。『もしも』の話ではあるけど、見た目に変化がないだけで、『もうゾンビかもしれない』……――そう思えば、撃ち殺すことに躊躇いはないよ」


「…………けどよ、感染すらしていなかったら……」


「殺した後、それを確認する術があるか?」


「お前……確認するつもりもなかっただろ――」


 拳銃を持ったまま、彼が、ふひ、と笑った。

 ……向き合いたくないと思ったのは、ゾンビに続いて、二人目だった。


 快楽ではないにせよ……しかし親友の覚悟に、急に怖くなってきた……。

 未来、ゾンビになるかもしれないと思えば、誰でも殺すのだろうか?

 聞けば、頷きそうだった……。

 頷くことに違和感がないと感じるほど、彼の覚悟を、理解してしまった。



「感染していようが、そうでなかったところで、俺を殺すつもりだった……?」


「いや、さすがにそれはないけど、噛まれた疑いが出た時点で切り替えたよ。絶対でなければ処分するべきだ。たとえ友達でも――。お前が言ったんだぞ、犠牲になった仲間の死を無駄にはしないって。だからおれだけは……絶対に先にいかないといけない――だから、」


 銃口が向けられる。


 今度こそ、銃弾が入った、本物の殺人道具だ。



「――まだゾンビじゃなくてもさ、そろそろ死んでくれるかな、親友」




 …了

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