第2話 三十路 知識ない

三十路になりまして、人生の迷子になりました。


人生を変えたいと思い立ち、まずは仕事からだろうと、スマホでいろいろ求人を見たけれど、接客業しかしていない私にはどれもこれも難しい案件だった。


人気のバイトで探すと、単発バイトなるものが多い。

アプリまであって、短日募集の案件に登録している人が気に入ったものを予約するみたいな働き方が出てきている。


最低時給を欲張って探せば、出てくるのは在宅ワーク。

在宅ワークってどんなことするのかなと検索をかけていけば、データ入力やらお問い合わせメールの返信対応などが出てくる。

コロナ以降、話題になっていたような気もするけど、テレビはいつもつけていないから、情報には全く無縁だ。


『へぇ~最近はこんな仕事が主流なの? 全っ然知らなかった。やばい社会に置いて行かれてる気がする。』


家が好きな私は、休日でも約束がなければ外に出ない。

その約束も、半々で断っている。

家にいてやることは、アニメや映画鑑賞、そして小説。

そんな根暗な私は、あまり外の情報とか人の話題とかを気にしてこなかった。


悔やまれる。

大いに悔やまれる。

いや、それを変えるために仕事探しはじめてるんだから、過去は捨て置くんだ。


『単発バイトは若い子向けだろうけど、在宅ワークなんて素敵すぎる。職場いかなくていいなんて、夢の仕事なんですけど!』


そして知ったのは、パソコンが無いとほとんどの在宅は無理だってこと。


『ガーン。パソコン持ってないし、買ったとしてもまったくわからないし。くそー、5年早く知りたかった。』


せっかく自由なシフト調整ができるフリーターでいたというのに、今まで何してたんだか。なんて、狭い世界で生きてたんだろう。今では仕事一つとっても、これだけ選択肢が増えていたなんて、夢が広がるじゃん!


とはいえ、新しいことに挑戦するなんて、できる気がしない。

できる気がしないんだよ。


しないんだけど、やってみないと変われないかもしれない。

いや、パソコンって、英会話するぐらい無謀な気がする。

いやいや、これからの五年を見据えてやってみたっていいんじゃない?


ぐるぐるぐるぐる。

ぐるぐるぐるぐる。


『あ゛ー。誰かに相談したい!』


出口の見えない思考を切り裂くべく、職場の同僚に在宅ワークについて色々相談してみることにした。

私の家族もまあ似ている思考だから、まったく違う他人が良いなと思った。

こんな風に、自分の悩みの話題で話すのは初めてだ。



中江さん「えー!大柴さんやめるつもりなんですか? 」


私「いやいや、すぐにどうこうじゃないんだけど、体もきつくなってきたからなーと思って。」


同僚の中江さんは二十八歳の主婦さんで子供がいる。化粧品とか好きそうな女子力を落としていない、若々しく元気な女性。


中江さん「良かった~。 まあ、今後のこと考えるとわかる気もするし、いいかもですねっ。在宅って簡単な操作ができればやれるらしいし、パソコン一台で色々仕事の幅が広がるみたいですよ? 私の周りも副業でやってる人多いです。」


私「 でも、スキル必要なんだよね? パソコンも高そうだし。」


住田さん「求めてるスペックにもよるけど、ビジネスとして使うならそれなりの値段になるかも。でも、将来的にもパソコン始めるのはいいと思うわよ。無料動画やブログなんかで使い方とか見れる時代だしね~」


住田さんは、四十代の主婦さん。子供が自立し始めたから、外に出て働くようになったらしい。噂話をよくしていて、声も大きい。いつもお菓子を持ってきてくれるけど、お菓子のセンスは抜群。


立川くん「パソコン買うなら、使いやすいガルとかがいいですよ。業務使いされてること多いしね。ここの職場にあるのもガルですよ。」


立川くんは、二個下の男性で資格試験を受ける予定だとかなんとか。あまり会話したことないけど、インテリさんのイメージ。


私「ほぇー、なるほどね! ありがとう。ちょっと真剣に考えてみます。」


みんな詳しすぎじゃない? 危うくついていけないとこだった。職場にあるパソコンだって機種気にしたこともないし、 怖い怖い。

私って、どんだけ無知で過ごしてきたんだか。


みんながこんなに知ってるってことも知らなかった。

むしろ、あまりプライベートな会話してこなかったな。

私には、いろんなものが欠けてるんだ。

他人への興味に、自分への興味。


友達とは違うから、やめてしまえば関わることもないと思って、当たり障りない関係だけ続けてきた。

話してみれば、みんな親身になって色々教えてくれる。

みんなそれぞれ違う人生で見つけてきた、たくさんの知識。


あー、また気づいてしまった。

なんてもったいない人生を送ってたのか。


だけど、今日から無知はやめていこう。

知ろうとしよう。

無知であることを知ること。

きっとここから始まる気がする。


『・・・うん、パソコン買うか!』





















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