孤狼と孤羊
蒼猫まろん
第一章 異なる二人
Prolog. 孤立した臆病狼
【狼】
スラッとした体が特徴的で群れて行動する、イヌ科の代表とも言える肉食動物の一種。世間には一匹狼と言う言葉が存在するが、群れで生活する奴らの種名があるのは少し腹が立つ。
一匹狼なんぞ、『一人で居る自分格好良い』と思っているナルシストか元々群れに入れない可哀想な奴の何方かだ。騒がしい教室の中で、俯いている一人の狼。彼奴は何方かと言えば後者だろう。
羊であるアタシには関係無い事だが、他人の眼前でくだらない虐めは実に不愉快である。一発殴れば良い話だが臆病者の彼奴にはハードルが高いのだろう。興味無いと言う顔をして周囲を見渡すが、ガキ臭い不良の行為を止めようとする奴は一人も居ない。弱肉強食と言われる程弱き者は強き者に喰われるのが現実だが、それでも限度と言う物がある。見たくない物を見せられ、アタシが殴ってやろうかと思ったその時。
教室の扉が開いた。
圧倒的な威圧に教室で騒いでいた奴らは黙り込む。それは不良共も例外では無い。この学園【ミスティウィル学園】に通っていれば誰もが知る生徒会会長───レオンハルド。
気高き百獣の王、ライオンである。
「この教室にウォルフ、メリアナと言う者は居るか」
百獣の王に名を呼ばれ、ゾクリと背筋が凍る。 これが肉食獣最恐の力か。静まり返った筈の教室は再び騒がしくなる。何かしたのか、と周囲で話している声が丸聞こえだ。
不良共も先程の勢いを取り戻し、ウォルフと呼ばれたあの臆病者を嘲笑う。アタシは兎も角、 彼奴が問題を起こすなんて事は有り得ないだろうと乱暴に席を立っては不良共の眼前に立ち止まる。
「黙れよ、ガキ共。うるせぇんだよ」
「あ゙ぁ゙?」
「メ、メリアナさん……?」
臆病者の腕を掴み、ズカズカとレオンハルドに向かう。草食動物に煽られ、怒りを顕にした不良共はアタシを追い掛けるが生徒会会長を前にする程感じる威圧感に怯んでいる。
睨む様にレオンハルドを見ては、吐き捨てる様に口を開いた。
「アタシはメリアナ、此奴はウォルフ。アタシらに何の御用で?」
アタシの行動は誰がどう見ても愚かな行為。草食動物のクセに肉食動物、況してや百獣の王に向かって偉そうな口を叩いているからだ。隣のウォルフも血相を変え、ヒュッと息を呑む。
目を丸くしていたレオンハルドも口角を上げ睨みとは違う微笑みをかけた。
「……良かった、会いたかったよ。生徒会室に着いて来てくれないだろうか」
アタシの顔は何とも間抜けな顔だっただろう。思ってもいなかった言葉に拍子抜けした。
会いたかった……?
レオンハルドに聞きたい事は山ほどあったが馬鹿にされまいと動揺を隠し、着いてってやろうじゃねぇかとウォルフの腕を掴む力を強めた。
「そうだ、ガキ共。これが生徒指導にバレたらどうすんだろうな」
腕を離し、懐から幾つかのとある物を不良共に見せる。それは校則違反の煙草だ。生徒指導はレオンハルド程の威圧感がある訳では無いが罰が厳しいと有名なゴリラ教師である。ワザと不良共の前を通った理由は煙草を盗る為だった。
想像したのか、不良共は立派に立っていた耳を伏せる。バレる覚悟を持って不良振って欲しい所だ。
「これは……言い逃れ出来ない校則違反だ。僕から生徒指導の先生に報告しておこう」
終わったな、彼奴ら。これからの状況を見る事が出来ないのは残念だが、プライドも何もかも失う彼奴らを想像すると清々しい気分になる。
没収した煙草をレオンハルドに渡そうとしたが、ウォルフがジップロックを渡して来た。生徒会長が疑いをかけられ無い様に……と言って来たが教師から異様な信頼を得ている奴が疑いをかけられる訳ないだろう。不安そうに見つめるウォルフに折れ、ジップロックに煙草を入れてレオンハルドに渡した。
「では、そろそろ行こうか」
「はいはい」
そう言って歩き始めるレオンハルドにアタシらは着いて行った。
孤狼と孤羊 蒼猫まろん @Aoneko2112
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