第12話
あの魔物討伐からしばらくたったある日のこと。私はしばらくゆっくり過ごしていた。その間、特に大きな問題は起こらなかった。フェンリス殿下が言ったように向こう側も次にどうするか考えているのかな。
ともかく私の周りは今のところ平和だ。
「アリアナ」
「はい」
ある日、夫婦の部屋で二人で過ごしているとフェンリス殿下が私に話しかけてきた。
「すまないな、お前に窮屈な思いをさせてしまって」
「いえ。あんなことがあった後ですから仕方がないことです」
護衛のことを言っているのならあんなことがあれば当然だろう。そのことに関して行動を制限するななんて言うつもりはない。
「それより私は殿下のほうが心配です。関係者が狙われたのなら殿下自身も狙われる可能性があります。気をつけてくださいね」
「俺はこのようなことなら何度でもあったから平気さ。ただ自分の関係者がこういったことに巻き込まれるのは本意ではない」
表情を変えず言い放つフェンリス殿下。
(またそうやって自分の命は勘定にいれない……)
この御方は自分にとって大事なもののことは自身の身より優先して守ろうとする傾向がある。フィリアの言ったとおりすべて自分が背負おうとするのだ。
そのせいで彼のことを冷たい人間という者達がいるのも私はこの数ヶ月で嫌というほど思い知った。
そのあり方を否定しようとは思わない。だが少し寂しいと思ってしまう。
(なんとなく放っておけないな)
他人になかなか理解されない彼の姿にかつての破天荒で周囲に理解されなかった自分を重ねてしまう。私も冒険者をやっていたりすることを周囲の貴族達から理解されず、辛い思いをしたからこんな感情が湧いてくるのだろうか。
「殿下、お話があります」
私はフェンリス殿下を見つめて話を切り出す。
「なんだ?」
訪ねてくる殿下の側まで私は歩いていくと彼の手をとった。
「私が巻き込まれたのを自分のせいと思わないでください。私はあなたの妻です、この国に来た時から内情を把握してこういうことが起きる可能性も考えていました。だからあなたが私に対して巻き込んで悪いと思う必要はないんです。彼らに指示をした黒幕についても一緒に調べていきましょう」
私の言葉にフェンリス殿下はきょとんとされるが次第にその顔には笑みが浮かんできた。
「お前は本当に不思議なやつだな。他国から本意でないのに嫁がされてこんなことを言う花嫁など他におるまいよ」
「あれは私の意思で決めたことです。それにあの国に未練はありませんし、この国の皆は私のことを認めてくれています。今はこの国のほうが居心地がいいくらいですよ」
私の言葉を聞いたフェンリス殿下は今度こそ大笑いしだした。
「く、くはははははははははははははは! 本当に面白い女だ。やはりあの時お前を嫁として迎え入れて正解だった。毎日が退屈しない」
「……それって褒めてます?」
「褒めているとも。これからもよろしく頼むぞ、変わり者の花嫁様」
そう言って不敵に笑う私の婚約者。本当に性格は傲岸不遜だな。内心呆れつつも私の心にもこの器用じゃない旦那様についてもっと知りたいという気持ちが生まれていた。
最初の知り合うきっかけはおかしなものだったものの今のこの状況を悪くないと思いながら私は殿下の言葉に答えた。
「ええ、よろしくお願いしますね。私の旦那様」
破天荒公爵令嬢の嫁入り 司馬波 風太郎 @ousyo
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