第11話
魔物の討伐を終えた私と騎士団の部隊は無事に王都に帰還した。帰還した私達を出迎えたのはフィオナとフェンリス殿下だった。
「御義姉様!!」
私の姿を見るなりフィオナが駆け寄ってくる。走ってきた勢いのまま彼女に抱きつかれたため、私は少しよろめいた。
「おっと……フィオナ、どうし……」
「心配しました!!」
私の胸に顔を埋めた彼女は顔をあげると泣きそうな顔をしていた。
「御義姉様が賊に襲われたと知らせを受けて……私、不安で……」
「私なら大丈夫、賊はちゃんと撃退したから。フィオナも私が強いことは知っているでしょう?」
「それはそうですが……それでも……!!」
「心配してくれてありがとう。でもどこにも傷は負ってないわ、ほら見て」
体に密着したフィオナを私は引き剥がし、くるりとその場で一回転してみる。
「ねっ、傷はないでしょう。だから安心して」
「フィオナ」
横からフェンリス殿下が会話に入ってくる。彼はフィオナの肩に優しく手を置いた。
「アリアナのことが心配なのは分かるが彼女も疲れているんだ。一旦休ませてやろう」
「……分かりました」
フィオナは大人しくフェンリス殿下の言葉に従うとその場から下がり、殿下に場を譲った。
「話は聞いた、無事でなによりだ。暗殺者を自ら撃退する王子の嫁など聞いたこともないがな」
皮肉まじりで私が生還したことを褒めるフェンリス殿下。こんな時でもこの人は相変わらずだな。
「ええ、なんとか。殿下、分かっているとは思いますがこの一件……」
「ああ。おそらく誰かが情報を渡したのだろうな。これからその者が誰かをあぶり出さねばならん」
「私もできることがあるなら強力します」
私の言葉にフェンリス殿下は眉間を押さえられて溜息をついた。ん? 変なこと言ったか、私?
「お前は自分が狙われたというのに奴らを相手にするのが怖くはないのか」
「また私を狙ってくるなら好都合です。その者達を捕らえて命令を下した者を捕らえます」
そのほうが効率がいいしね。他に被害も出ないし、一番楽な方法だと思うけど。
「……しばらくは休め。向こうもしばらくは動かんだろうさ、その間に対応策を考える。お前にも護衛はつけさせてもらうぞ」
「分かりました」
呆れたようにフェンリス殿下が言った言葉に私は同意する。少し不自由になるけどこればかりは仕方ない、ことがことだしね。
(にしても私を狙った理由はなにかしら? やっぱり私が最近王城内で影響力をそれなりに持ったせいかしらね)
考えられるのは殿下や城に務めている官吏に私がいろいろと助言していたのを改革派と見なされたのが一番可能性が高いと思える。来たばかりとはいえ、私のような王子の妻が改革派として影響力を行使するのは対立する者達にとっては頭が痛いことだろう。今後力を増されては面倒と判断でもされたのだろうか。
「おい」
「は、はい」
いけない、思考に没頭していて周りを見ていなかった。フェンリス殿下が不機嫌そうな表情でこちらを見ている。
「さっきも言ったが今は休め、いいな」
「わ、分かりました」
強い口調で言い含められて思わず私はたじろいでしまう。言うだけ言ったフェンリス殿下は踵を返してさろうとするが、再びこちらを向いて私に近寄って顔を近づけてきた。
(ち、近い! 近い!!)
美しい顔がいきなり近くに来て私は思わず目を逸らしてしまう。この顔を近くで直視するのは目の保養にはなるが心臓に悪い。今も早鐘のように鼓動を打っている。
それにフェンリス殿下にじっとのぞき込まれるのは酷く恥ずかしかった。
「ど、どうされましたか?」
「……本当に怪我はしていないな? うまく隠そうとするなよ」
「か、隠してません。本当に大丈夫です!!」
耐えきれなくなった私は腕を振りほどいてフェンリス殿下から距離をとる。フェンリス殿下はじばらくじっと私のことを見ていたがしばらくすると再び踵をかえして歩き始めた。
「どうやら本当に大丈夫らしいな。つくづく前代未聞の妻だ、お前は」
そういって足早に去っていく。後に残された私はしばらくその場に固まって動けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます