第10話
「あなた達は……私が誰かを分かって襲撃しているのですか?」
私は低い声で黒ずくめの者達に問いかける。
「もちろんだとも。ブラッドムーン王国第一王子フェンリス殿下の妻、アリアナ。我らはお前の命を奪うように命を受けているのだから分からないはずがなかろう」
予想をしていた回答だ、ついに来たか。
フェンリス殿下に反感を持つ勢力がいる以上、いつかはこういうことになると思っていたけど。まあ、暗殺するなら私が一人でいるこのタイミングは確かに好機か。魔物の討伐に出向いてその時に死亡となれば魔物に殺されたということで処理して暗殺を隠蔽できるし。相手にとってかなり都合のいい状況だ。
「なるほど。私が誰であるかはきちんと理解しているのですね」
つまりこいつらは最初から私を狙ってきたわけだ。誰かの指示で動いているのは確実だろう。
「ならあなた達が誰の指示で動いているか洗いざらい吐いてもらいましょうか」
私は剣を構え、宣言する。こいつらは捕まえて黒幕を吐かせる必要がある。放っておけば殿下の脅威になる可能性があるからだ。
「私を狙ったのが運の尽きでしたね。大方私を倒せると思って仕掛けたのでしょうけど」
「良く回る口だ。だがお前はもうすぐ死ぬ。少しはその口を噤んだらどうだ?」
「おあいにく様。ここで死ぬつもりは私にはないので」
せっかく自由な生活を満喫している最中なのだ。こんなところで死んでたまるか、なにがなんでも生き残ってやる。
「くく……お前が生き残ることはまずないから安心しろ! ここで確実に殺してやる!」
黒ずくめの暗殺者の一人が私に向かって突っ込んでくる。目にも止まらぬ早さだ。
「早いですね。でも」
捕らえられない相手じゃない。
「な、なに!?」
相手が驚愕の声を上げる。それもそうだろう、向こうからしたら楽に殺せると思っていた王子の妻がこれほど強いとは思っていなかったはずだ。今、振り下ろした短剣で私は絶命し、任務は達成になるはずだった。
「う、受け止めた!?」
私は相手の短剣による攻撃を剣で受け止めていた。確かにさっきの攻撃は一撃で相手を死に追いやれただろう。並の相手であればだが。
「残念でしたね。どうしたんです? 先ほどの威勢はどこにいったんですか? もうこれで攻撃は終わりですか?」
淡々と問いかける私から相手は距離を取り、再び短剣を構える。冷静さを失わず体勢を立て直すのは流石にプロといったところか。
「どうなっている!? ただの王子の嫁がこれほどまでに強いものなのか!」
私に斬りかかってきたものの一人が困惑した声を上げる。やはり私の情報はただの王子の嫁として伝わっているようだ。
「確かに多少の武芸の心得があるとは聞いていたがこれほどとは思わなかった。これは我らも楽にこなせる任務と思わぬほうがいいかも知れぬ」
「そのようだ」
様子を見ていた残りの二人も木から下りてきて短剣を構える。どうやら私のことを強敵と認識したらしい。切り替えの早さは敵ながら見事と言えるだろう。
「うん、やっと私に対して本気になりましたか」
「どうやらお前は手を抜いて戦っても殺せぬようなのでな。こちらも本気でいくぞ」
「いいですよ。どうぞかかってきてください」
私の挑発するような言葉を合図に暗殺者達が一斉に襲いかかってくる。恐ろしい早さで迫ってくる短剣の刃が三つ。私はそれを剣で捌いて、反撃できる時は反撃する。相手の攻撃は恐ろしく連携がとれていて一瞬でも気を抜けば私は死ぬだろう。
(しかも刃に毒みたいなものも塗られてるみたいだし。これは攻撃を受けたら即終わりと考えてよさそうね)
久しぶりの命をかけたやりとりに私の額から冷や汗が流れる。だからといって死ぬ気は毛頭ない。
私は暗殺者の一人が繰り出した攻撃をまず体を捻ってかわす。そして足をひっかけてそいつを転ばせた。
「なっ!!」
勢いをつけて私に突っ込んできていた暗殺者の一人は私が出した足に引っかかって転んでしまう。それは戦いの中では大きな隙だ。私はその機会を逃さず、転んだ暗殺者の腕に剣を突き刺した。
「ぐっ……ああああああああああああああああああああああ!!」
痛みで悲鳴を上げる暗殺者。私は彼のもう一つの腕と両足にも剣を突き刺して完全に動けないようにする。
「さてあと二人」
「お、おのれ!!」
「ま、待て!! 早まるな!!」
仲間がやられたことに怒りを感じたのか、残った暗殺者の内の一人が仲間の制止も聞かずに私に向かって突っ込んでくる。冷静さを失って突っ込んでくるなんてこちらの思う壺だ。暗殺者としては不合格だけど。
私は突っ込んで来た暗殺者の攻撃を軽くかわす。そのまま隙だらけになった相手のお腹に剣の柄を思い切り叩き付けた。
「……!!」
柄を叩き付けられた痛みでその場に崩れ落ちる暗殺者。私はそいつの頭を足で蹴り飛ばした。蹴られた暗殺者はしばらく地面を転がり、意識を失った。
「さてと、あとはあなた一人」
私は残った暗殺者の一人と対峙する。こいつも生かして捕らえないと。
「何者なのだ……お前は。ただの王子の婚約者にしては強すぎる」
「さあ? 暗殺を生業にしているなら対象の強さぐらい自分達で調べて正確に計れるようにならないと駄目でしょう。武芸の心得があることは知っていた見たいだけど……そんなことも正しくできないなら暗殺者失格よ」
私は剣を構えて地面を蹴り、最後の暗殺者へ肉薄する。上段から相手目がけて剣を振り下ろした。
「早いな……」
だが相手も動じずに私の攻撃を受け止める。この暗殺者はさっき倒した二人よりも遙かに強い。おそらくこの者がリーダーなのだろう。暗殺者は私の攻撃を受け止めると反撃に転じ、体術を交えた攻撃で私に攻撃をしかけてきた。
私はそれをかわしたり剣でさばいたりして攻撃を凌ぐ。相手に隙が出来た時はその好機を逃さず斬り込んで行く。
(この男……さっきの二人よりは強い!!)
私の攻撃を防ぎ、きっちり反撃してくる。隙が出来てもすぐに体勢を立て直して私の攻撃に対処してくる。さっきの二人とは大違いだ。
私は思いきり剣を上段から力任せに振り下ろす。相手はこの攻撃は受けきれないと踏んだのか大きく後方に飛び去った。
(ここ!)
私は相手が後方に飛んだのに合わせて、大きく前に踏み込んで剣をそのまま横薙ぎに振るった。
「ちっ!!」
相手は大きく後ろに飛んでいたため、短剣で私の剣を受けざるを得ず、その結果大きく地面を転がった。武器の短剣は今の攻撃を受けたせいで折れてしまっている。
「ここまでですね。観念して捕まってください」
私は剣を突きつけて相手に迫る。
「ふん、まさかただの王子の婚約者がここまでの強さを誇るとは思っていなかったぞ。今日のところは引き上げるとしよう」
「逃がすと思いますか?」
私は相手が動けないように手足をついて行動不能にしようとする。
「撤退はきちんと選択肢に入れておくものだ」
暗殺者はそういうと懐から丸いものを取り出し、地面に叩きつける。叩き付けられた球体から煙のようなものが発生し。視界が奪われた。
「しまった!!」
私は思わず舌打ちしてしまう。煙がはれた時には暗殺者達の姿はもうどこにもなかった。
「逃がしたか……」
私は悔しくて唇を噛む。今後脅威になりそうなものを未然に排除出来る機会だったのにみすみす逃してしまった。
「アリアナ様ー!」
背後から部隊長が私を呼ぶ声が聞こえる。
(今回の暗殺者達に指示を出したものについて突き止める必要があるわね。戻ったら殿下とも話し合わないと)
「不穏だわ」
不安を覚えながら私は部隊長達のほうへ向かって歩き出した。
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