第6話

今日からこの家で、ぼくは奏多くんと一緒に暮らす。


「ふふふ…嬉しいなぁ…」


一緒に寝るベッドに座って、ふと思う。


あの日奏多くんを家に招いたことは、僕にとって最良の選択だった。


あの頃のお父さんは、新築一戸建てを建てる為に一所懸命に働いていた。

夢なんだって、お爺ちゃんから相続した古い家と土地に綺麗な家を建てるんだってぼくにお話してくれた。

でも日に日に、お父さんはピリピリしていった。

ストレスだ、ってお母さんが教えてくれた。


お母さんはそんなお父さんにすごく疲れていた。

古い家も嫌だって言っていた。

だからお母さんとお父さんは喧嘩することが増えていった。


ぼくはお隣のお兄ちゃんがこわかった。

すぐに体を触ってこようとするし、家に連れてこうとするし、ゲームも勝手に持っていく。

嫌だと言っても聞かないひとで、本当に大嫌いだった。


家の中が暗く感じ始めていた。


転校生の芦生奏多くんは、まわりにいないタイプだった。

すごく明るい。

小さな太陽みたいに明るい。

真面目で、運動も勉強も出来て、誰にでも優しい。

同じ歳のはずなのにすごく大人に感じた。

なのに、すっごく子供っぽいことを突然する。

そのギャップが、ぼくはすごく可愛いって思った。


ずっと目で追い掛けてしまった。

お話にも聞き耳を立ててしまった。

仲良くなりたかった。

ぼくは友達がいなかった。

友達になりたいって、友達が欲しいって思わなかったからだ。

1人で静かにしているのが好きだった。

でも、僕は彼と仲良くなりたかった。


お話を聞いている内に彼がゲームがすごく好きっていうのを知った。

好きなシリーズ、その最新作、それを切っ掛けにすれば、仲良く出来るかもしれない。

僕はそう思って、彼が好きそうな最新作のゲームを買った。

これで彼とお話することができる。

しかもお小遣いが足りなくて買えなかった、って聞こえた。

ぼくは有頂天で彼に話しかけた。


家に誘ってから、ゲームを隣のお兄ちゃんに持ってかれていたことを思い出した。

嫌な出来事すぎて忘れてしまっていた。


焦る僕を奏多くんは宥めてくれた。

普通に遊ぼうって言ってくれた。

嬉しかった。


でも押し入れで遊ぼうって言われたのには驚いた。

ためらいもなくぼくのお布団の上に寝そべって、ぼくを引っ張った。

ぼくのお布団の上に奏多くんが居る、それだけで恥ずかしくってどうしようもない気持ちになった。

できれば奏多くんの匂いがお布団に移って欲しいな、なんて思ってしまった。


押し入れで空想の世界に冒険に行くのは、とっても楽しかった。

最初は、また子供っぽい一面がって思った。

可愛いなって思った。

でも、一緒に宇宙を冒険するのは、すごく楽しかった。

手を繋いで妄想を広げ合うのは、どんなゲームなんかよりもワクワクした。


そしてぼくと奏多くんは、とっても気持ちの良いことをしてしまった。

いっぱいキスをした。

身体を触りあった。

ぼくは奏多くんが、大好きだったんだ。

キスをして触れ合って、それが理解出来た。

どおりで友達になりたい、じゃなくて仲良くなりたいって思ったわけだ。


いっぱい気持ちの良いことをして、ぼくたちはそのまま眠ってしまった。

そしたらお買い物から帰って来たお母さんに怒られた。


もうすっかり日が暮れていた。

ぼくは、奏多くんが早く家に帰らないといけなかったことに慌てた。

奏多くんは少し考えてからお母さんと僕に、


「双葉、双葉のお母さん、夕飯の支度を手伝うのでご飯を食べさせて欲しいです。そして父さんに電話で家に居なかったことを一緒に説明して欲しいです」


とお願いしてきた。


奏多くんの家にはお母さんが居ない。

奏多くんが小さい頃亡くなってしまったそうだ。

今はお父さんと二人で暮らしていて、奏多くんはお父さんのお仕事の都合でもう何度も転校していた。

仲が悪い訳ではない。

けれどお父さんが帰ってくるのが遅い日は、絶対に遊んで帰らず家に居るって約束をしていた。

それは奏多くんを守る為の大事な約束だ。

だからそれを破ってしまったけどちゃんと友達の家に居ますって、説明を一緒にして欲しいって言われた。

ぼくはもちろんだよって、奏多くんの手を握り締めた。

お母さんはお料理出来るの?一緒に用意しましょうねって、違うところを喜んでいた。


お父さんへの説明はぼくと奏多くんでした。

奏多くんのお父さんは家に居ない奏多くんをまず叱った。

けれど、ぼくと仲良くなって、押し入れで冒険した話を聞くと、そうか良かったなって言ってくれた。

それから奏多くんのお父さんはぼくのお母さんに電話を変わって欲しいって言った。

大丈夫かなって思ったけど、大人同士で話すのは大切だ。


お母さんは、あら、まぁまぁ、大丈夫ですよ、いえいえ、こちらこそ、ってなんだか楽しそうにお話していた。


「奏多くん、お父さんが明日迎えに来るから、今日はうちに泊まっていかない?」


「え、いいんですか」


「うん、ぜひぜひ~」


「じゃあ…」


奏多くんはぼくを見てニコリと笑った。


「お世話になりまーす!」


お母さんはうふふって笑って、電話の向こうでお父さんがお前なぁって言うのが聞こえた。

ぼくは、まだ一緒に奏多くんと居られるんだって、思って、嬉しかった。




帰って来たお父さんは、明るい奏多くんをすっかり気に入ってしまった。

お母さんも楽しそうに笑ってて、ぼくも楽しかった。

久しぶりに家が明るくって、ご飯が美味しかった。

それからずっと、ぼくは奏多くんと一緒だ。


お父さんに奏多くんと一緒になりたいって話した時、ぼくはあの日の選択が正しかったことを知った。

あの日、お父さんは家に帰ってみんなが寝静まったら心中しようって考えていたそうだ。

ストレスで頭がおかしくなっていた。

暗い家をぶっ壊したい。

逃げ出したい。

終わらせたいって考えていた。

でもすっごく明るい子が家に居て、家が明るく感じて、悪いのが何かに気付いたんだって。

話を一緒に聞いていたお母さんも、同じだったって言った。

お父さんがしてなかったら、あの日、自分もしていたって。

けれど奏多くんが明るくて楽しくて。

だから二人にとって奏多くんは小さな太陽だ、って言ってくれた。

そんな子と一緒になるなら応援する。

そう言ってもらって、ぼくは嬉しくて幸せだった。


奏多くんは一年ほどぼくと同じ学校に通ってから、また引っ越しした。

でも引っ越し先はそんなに遠くない場所だったので、同じ学校を受験することにした。

お隣のお兄ちゃんは、絡んでこなくなった。

奏多くんが上手に追い払ってくれたのだ。

ゲームも取り返してくれた。

ぼくは守ってくれる奏多くんがカッコよくで頼もしくて、幸せだった。




今日から、ぼくは奏多くんと同棲する。

奏多くんのお父さんも認めてくれてるから、ぼくたちはもう家族だ。

お料理好きな奏多くんは、夕ご飯の食材を買いに出かけてしまった。

ぼくはあることがしたくってお留守番だ。



「よいしょ…ふふふ…たのしみ、だなぁ…」


すごく綺麗な襖を引いて、押し入れにはいる。

上段は収納スペースになんて絶対しない。

奏多くんに収納は任せてって言って巻かした成果は上々だ。

お布団を敷いて、ランプも設置、ウェットティッシュ等、色々揃えた。

ぼくはズボンとパンツを脱ぎ準備する。


ああ


はやく


きて


かなたくん


だいすき


あの日押し入れでしたキスを思い出す


ぼくはあの日からずっと奏多くんの虜だ


だいきすき、奏多くん


大好きな奏多くんを思いながら、ぼくは、身体をひらく

帰ってきた奏多くんと、愛し合う為に






実は蓋を開けたら双葉やべー奴だった、というやーつ

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押し入れで冒険 狐照 @foxteria

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