第18話

一連の流れを傍観していた姉が、弟は腹減っているからくそ不味い飯でもいいから用意しな、と彼らに命令して自体は一応の収まった。

ベッドのそばにある椅子に彼は座り今日の出来事を話していた所で、拳より大きなおにぎりを看護士が運んできた。

ついでとばかりに、落ちく窪んだ右目に眼帯を与えてくれた。

それの治療には体を実体化させ応じて欲しいと言われ、彼は首肯で答えた。

おにぎりの中身はなかったが、空腹を思い出した彼には満腹になればなんでも良かった。

おにぎりを食べても大丈夫かと、姉に聞けばお腹一杯になって寝るだけだよと苦笑された。

細工無しのしょっぱいおにぎりにかぶりつきながら、明日からどうすればいい、と彼は聞いた米粒を学ランにくっつけながら。

姉は明日も同じで良いと答えた。

遊んでこいと、言われて狐面の少年のことがすぐ頭に浮かんだが。

俺は姉さんを助けたい、この状況を今すぐにでも打破したいと返す。

やせ細った姉を、壊れた母を助けたかった。

けれど姉は首を横に振る。


「いいんダよ。お前ガおとナになるマではこのままで。タダでくラしていけバ良いんダよ」


諭すようにそう言われ、確かにと思う。

子供の自分では生命維持が必要な姉の、治療費なんてのは払えない。

金銭面は、想いだけでは支えきれない。

だったらここでこのまま生活していけばいいのだ。

少しづつ、母を救いながら生きていけば良いのだ。


「お前ガおとナにナっタラ、こんナヤつラ」


怖くなんかないだろ?

意地悪く囁かれ、出されたおにぎりを全て平らげた彼は、大きなゲップで返答した。

それはおそらく未来予知。

だったら黙って従って、好きにしていればいい。

勉強もしろよ、という台詞は聞き流しつつ。


「じゃあ明日は戦闘少女は避けていい?」


「女ノ子可愛くナいノカよ」


「かわいくねぇよ、怖いよ」


肩を竦めて答えると、姉は呆れたように溜息を吐いた。

そうして、今日は疲れたでしょ、お腹一杯になったなら寝ちゃいなさい、と。

彼はそれに素直に従った。

白いソファに寝ころぶと、眠気という重くもたりとしたものが目玉から飛び出して全身を駆けめぐる。

せかせかではなく、よろよろと。

遠慮無く、支配していく心地よい重たさ。

おやすみ。

姉が夜だというのに、黄色い光りが差し込む病室でそう告げた。

おやすみ。

これからのことに胸を膨らませ、明日あの少年と何を話そうかと思案しながら彼は答えた。

眠れない気がした。

けれどこの心地よさには抗えない。

無我をぎゅっと抱きしめたい。

戦闘少女は怖いので会いたくない。

狐面の少年とは何をして遊ぼうか。

胸は高鳴り、それでもまたたく間に寝息は零れ。

彼はその晩猫のようにすやすやと眠った。

姉が再び一週間の余命を当然のように手入れたことに安堵しながら。

いつか来る、姉が視た未来を信じて姉も信じながら。

明日、どう遊ぼうかと夢の中でも悩みながら。

黄昏と彼誰との間を彷徨う街で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

たそがれのまちかわたれのとき(仮) 狐照 @foxteria

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ