第17話
姉の命はあと数分で尽きてしまう。
そうなるように、教団側が姉の体をいじったのだ。
けれど姉の心までは操作できなかった。
母のように壊せなかった。
だから彼を人質にしようとした。
神が宿る器にして、壊そうとしたのだ。
けれどそれにも失敗して。
逆に捕まえることができない、因子になり。
延命という命でしか、彼女を支配できないでいるのだ。
姉が予知しなければ、教団側のメンツに関わる問題に発展する。
信仰する落ち神様からのお告げなのだから。
過去ばかりではもう、だめなのだ。
未来を予知する力が、どうしても必要なのだ。
故に教団は、命を人質にしていても、彼女を殺すことなどできないのだ。
彼女は神など信じていない。
「アタしの人質は、ハハ。でもアタしはダれの人質でもナい」
彼女は教団を鼻で嘲笑う。
「弟ガ心を取り戻すマでダっタラ、ナんどダって予知してヤるよ」
姉は家族を守ろうとしている。
そんな姉を、彼は救いたかった。
教団は怖い。
何をするか分からない落ち神はもっと怖い。
囲われ姉は不自由の身。
けれど、二週間前とはまったく違う。
なにかできる、千里眼ではないけれど、人とは違う自分なら。
彼は身を窓枠に乗り上げ、
「弟が心を取り戻しても、生きて欲しいんだけど」
延命処置を施されていた姉と対面した。
看護士は人の姿である彼に驚愕し、慌てて病室を飛び出す。
今なら捕らえられと考えたのかも知れない。
そんなことはどうとでもなる。
頑なに雲だと思いこめば回避できる。
姉のためだったら、できる気がした。
微かに傷ついた足の裏に、緑一面の床は冷たかった。
病室ないもあまり暖かくはなかった。
寒空の中数分間同じ体勢は、腰と足と手にきていた。
しんどかった。
けれど、姉が微笑んでくれた。
呼吸器の向こう側で、微かに驚いた姉。
それからゆっくり微かに顔を動かし、弟の姿を見やり。
花が咲いたかのように微笑んでくれたのだ。
全て隠されている。
それでも安心したかのように、息を深く吐いてくれた。
笑ってくれている。
喜んでくれている。
それが、嬉しかった。
「おかえり」
義務的な声色の中に含まれる、喜び。
それが照れくさくて、彼は早口にただいまと、返す。
手洗いうがいはちゃんとしなよと、叱られる。
いつまでも裸足でいるんじゃなよと、部屋の隅に放置され彼のロファーを履けと命じられる。
懐かしい五月蠅い小言に、涙が止まらなかった。
看護士が騒ぎ立てて、彼の涙は直ぐに引っ込んだ。
おまけに捕獲用のさすまたやら網やらを抱えた、今朝別れを告げた若者たちと再び対決するはめになった。
もちろん、彼の圧勝だった。
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