14 そして学院へ(一部完)


 後宮での日々は変わり映えのしないものである。

 子供の頃と大人の頃は時間の感じ方が違うと言うが、二度目の人生というものもありそれを身を持って実感していた。単に退屈だからかもしれないが。

 永遠のように感じられた後宮生活であったが、それでも時は過ぎゆくものだ。


 気づけば二年が経ち、学院に入学する日がやってきた。

 それはリリーとの別れの日でもある。リリーも奉仕期間が終わり、辺境にある伯爵家の実家へと帰ることになる。


 学院に入学する前夜。

 俺はリリーと二人きりになり、贈り物をしていた。


 それはネックレスだ。

 装飾として魔物の素材から取った貴重な部位を使い、中心には疾風蜥蜴の眼球が生み込まれている。色とりどりの素材を使い左右対称になるように設置したため見栄えもいい。使った素材の貴重さからして然るべきところに売れば一財産になるのではないかと思う。


 勿論ただのネックレスではない。

 疾風蜥蜴の眼球を嵌め込まれた金具の裏側には術式が刻まれており、俺とパスが繋がっている。これは経験値ゴーレムの応用であり、『憑依』と似たような感じで俺の右目とリンクさせることによって、疾風蜥蜴の眼球から見える景色を覗くことができる。

 リリーが困った時に助けられるようにとの考えだ。パスが繋がっている限りリリーのいる場所も何となく分かるため、探す時にも役に立つ。

 現代なら盗撮と呼ばれる行為であるが、バレなければ問題ではない。悪用する気はないし、このようなものは一般ではないようで規制もないため合法だ。

 学院に行くにおいてはリリーの動向だけが心残りだったが、ネックレスのお陰で大体把握できるようになったため安心して入学できる。


 作ってから思ったが、このようなものは経験値ゴーレムと違って魔力の収支が常にマイナスなので増やすことは厳しいな。作るなら、自力で魔力を稼ぐことの出来る経験値ゴーレムの方が扱いが楽だ。


「これはこれまでの感謝の気持ちだ。長い間よく俺を支えてくれた。

 もし金に困ったら売ってもらっても構わない」


 その時は即座にパスを切ることになるだろう。場合によっては回収するかもしれない。


「いえ、そんなことは出来ません。ヴィン様からの贈り物……一生大切にします」


 リリーが潤んだ目で俺を見つめ、頭を下げた。

 そして繊細なものを触るかのような手つきでネックレスを首にかけた。その姿からはリリーの嬉しさが伝わってくる。

 ここまで感謝されると思っていなかったので気恥ずかしい。

 ただ、どこか気後れのようなものも感じた。その原因は何か分からなかったが、喜んでくれているのは事実なので別にいいか。


 その後は明日が別れなので、二人で就寝時間になるまで話す。

 話題はこれまでのことを思い返しての思い出話が主となった。

 後宮は村八分にされてはいたが、乗馬などリリーと過ごした時間は楽しかった。血の繋がりはないがリリーからの頼み事だったらなんでも叶えてあげたい。そう思って尋ねてみたが、特には無いとのこと。まあ将来にとっておくことにしよう。

 最後の夜であったが、リリーはどこか言葉少なだった。違和感はあったが、困らせたく無いので触れないでおいた。しかしその後すぐにその理由を知ることになる。


 そして。

 就寝時間ということでリリーも部屋に戻り。

 灯を消して寝ようと寝床についた時、扉が開く音がした。

 まさか、正妻の雇った暗殺者か。と、視線を向けると、そこにいたのは薄着に身を包んだリリーの姿だった。

 僅かな明かりに照らされたリリーの姿は美しくもどこか淫らだった。


「起きていますか?」

「あ、ああ」


 上擦った声が出る。

 もしや、と想像が掻き立てられる。だが、母役をこなしていたリリーに限ってあり得るのだろうか。

 リリーが布団の上に座り、喋り始める。


「私とヴィン様が初めて会ってから、色々な事ありましたね。気づけばヴィン様は家族の次に過ごした時間が長い人になってしまいました」

「……そうだな」

「私は明日、実家へと帰らなければなりません。そうなれば、機会でもなければ会うことは難しくなるでしょう」


 心臓の音が激しい。転生してからここまで緊張するのは初めてだった。

 顔を見れずにいる俺の前で、そっとリリーが俺の手を握る。


「ヴィン様。

 最後の夜です。忘れられない夜にしませんか?」


 逡巡は一瞬だった。

 それの意味するところが何かを理解できないほど鈍感ではない。

 俺はリリーの目を見つめる。紅潮した頬と濡れた瞳は、これほど美しい女性はいないと感じさせた。


「……分かった」


 リリーをベッドに押し倒す。股間が痛いほどに屹立していた。


「ふふ。パウル様のことを羨ましげに見てましたから、ヴィン様が興味あるということは分かってましたよ。

 私が、リードしてあげますからね」


 こうしてリリーと、一夜を共にすることになった。


 ◻︎


 顔を照らす陽光に目を覚ます。すっきりとした感覚があった。

 横を見ると、夢では無いことを証明するように裸のリリーが寝ていた。

 リリーのことが愛しくてたまらない。リリーの柔らかな髪を撫でる。


 最高の一夜だった。一皮剥けて男になった気分だ。

 リリーも初めてだったようだが、ショタ神のお陰かスムーズに熟すことができた。爆弾級のおっぱいもしっかりと堪能させてもらった。

 というかリリーの乱れようが凄かった。ショタ神のマジカルのお陰か何度も達し、まだ布団の昨夜流した汗がまだ乾ききっていない。

 俺も何度出しても萎える様子がなく、興奮したので二桁も出させてもらった。前世含めても最高記録だ。

 ショタ神曰く副作用は無いとのことだが、少なくとも筋肉痛には苦しめられることになりそうだ。

 また声も激しかったが、防音の魔法を使ったため外には漏れていないはずだ。


 少し身動ぎするとすると身体が重いが、その疲労すら心地よい。心を許した相手と身体を交わるというのがここまで気持ちの良いことだと、初めて知った。

 しかし、これを最後にリリーと出来る機会は当分訪れないだろう。学院に入ってしまっては離れ離れだ。

 もっと早くにリリーとこんな関係になっていれば、淫蕩の日々を過ごせたのにという後悔が浮かぶ。


 しかし、冷静になって考えてみれば、リリーの行動は唐突だ。

 このような行為は普通なら恋人という過程を乗り越えてからのものであるはずだし、昨日までのリリーとの関係はキスもした事が無い家族のようなものだった。

 それが昨日ジェットコースターのようにキスをし、身体を晒け出し、肌を交わした。

 以前から恋心を持っていたというのには脈拍がない。

 リリーの行動には元となる原因があるはず。


 ……罪悪感、だろうか。


 最初の頃は俺のことを「守る」「助ける」「逃す」と、安心させるような言葉を吐くことが多かった。

 しかし、別れが近づくにつれ頻度も少なくなった

 それがリリー自身が出来ることがほとんどないと考えたためならば、無力さを実感することだろう。所詮リリーは伯爵家の娘でしかない。リリーにも家族がいるし、彼らのことを考えたら短慮な行動は取れない。


 そして今日だ。(リリーからしたら)ほとんど何もできずに別れる日がついに来てしまった。ここで別れてしまっては、二度と会えないなんてことは普通にあり得る。リリーの領地は辺境で遠く離れているからな。

 俺の立場を理解しながらも何も出来なかったという後悔が突発的な行動を引き起こした、ということだろうか。

 もしくは贖罪なのかもしれない。もはや暗殺されるのを待つ身外からはそう見えるはずの俺に、最後に夢を見させてくれたなんてことも。


 いや変な勘繰りは止めよう。


 どんな理由だったとしても、別に俺は何も気にしていないし、むしろリリーには感謝しかない。リリーがいなかったら、今頃生きていられただろうか。地獄のような後宮生活が耐えられたのはリリーの献身のお陰だ。

 リリーはこの世界で唯一俺の大切な人だ。これは決して変わることはないだろう。


「……おはようございます」


 目を覚ました様子のリリーにキスを落とした。


 その後着替えた俺たちは、学院への用意をした。


 馬はリリーに引き取ってもらうことにした。学院に行った俺が世話できると思わないし、後宮にいる間だってリリーがしてくれていた。俺といるよりもリリーといた方が幸せに暮らせるだろう。


 12年過ごした後宮ではあるが荷物は少ない。錬金道具が主だ。

 学院では王族であるため一室が与えられるらしいため荷物が収まりきらない心配は必要なさそうだ。


 新たな門出だ。

 見送りをするリリーを最後に一度抱きしめ、馬車に乗った。


 こうして俺は、学院に入学した。

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