第49話 誕生日

 私が自傷行為をする回数は少しづつ減っていった。オネエ様が精神安定剤のようなものだ。一人になれば壊れてしまうだろうが、それは仕方がない。


 それでも私は徐々に元気を取り戻し始めている。何をするにも気力がわかなかったし、嫌なことばかり考えていた。その度にオネエ様はいい未来を想像させてくれた。私が悪いんじゃないと言ってくれる。


 夢の中の私は甘えだと言うが、オネエ様にみっともない姿を見せ続けるのはもう嫌だ。私が自分を責めることで、オネエ様にも影響が出てしまう。それは絶対にダメだ。過去は変えられないのだ。


 罪を抱えながら、私は誰かのために役立っていくと決めた。自分を苦しめても何も生まれない。やっとそれがわかったのだ。


 私はオネエ様とオランダへ行く。自分を見失いそうになった時は、心の中で何度も唱えるの。そうすれば楽しい未来を考えられる。


 私はやめていた英語の勉強を再開した。オネエ様が入院してから全く見もしていなかった。失望されたくない。今度こそちゃんとやらないと。そうして私たちは、再び目標に向かって歩き出したのだ。



 事件については、ニュースに取り上げられている。影彦くんの名前と顔写真が公開された。東宮くんたち家族には、憐れみの声がかけられている。彼のために一生懸命取り組んだ事実があったからだ。


 東宮くんに告白されたあの日を思い出す。彼の人生は私に執着するほど、拠り所がなかったのだろうか。彼の家族は彼を理解しようとしていた。それだけでも救われるだろうに。もっと根が深い問題だったのかな。私にはそこまで理解ができない。所詮他人のことなのだから、分かりっこない。



 一方で突き飛ばしてきた同級生の女性から、何度も連絡が来ている。なんとも嫌な思い出だから、名前も呼びたくない。


 SNSの名前は『いじわるちゃん』と設定している。東宮くんはどうしているか、今でも私に聞いてくるのだ。正直面倒だ。本人に聞けばいいじゃないかと思う。あの行動は反省しているようだが、アプローチは上手くいっていない様子だ。


 自分が頑張る他ないと思うんだけど。私に当たられても困る。直接謝りたいと言われたが、もう顔も見たくなかった。会う気はないときっぱり伝えている。中々図太い精神をしている女性だと思う。


 そんな彼女に嫉妬してしまう。



 十月二十六日は、私の誕生日だ。予め休みを取るように言われている。オネエ様に初めて祝われるなんて、とても幸せな気持ちだ。楽しみすぎて、よく眠れなかった。ピクニック気分みたい。


 今までプレゼントを貰ったことがあるが、素直に喜べなかった。リアクションを取らなければ……という気持ちが勝ってしまうのだ。私なんかが貰っていいのか、なんて気持ちもあって。



 それがあまりに辛くて調べたことがある。自尊心が低いからだと知ってからは、友達にプレゼントをあげなくなった。そうすればお返しに貰うことはないから。


 とても気持ちが楽になって、もっと早くこうしていれば良かったなーなんて思ったんだよね。学生の頃は渡さないといけない雰囲気があったから、仕方なかったのだけれど。


 社会人になって、小さな社会から飛び出たからこそなのだろう。そういう意味でも、大人っていいなと思う。




 さあ昼ご飯を食べようというところで、「出掛けるわよ!」と張り切った様子で外へ連れていかれた。今日は特に、お互いメイクをばっちりキメている。



 昨日オネエ様はネイルをしに行っていた。少しだけ伸ばした爪が綺麗に黒く輝いている。両手の一つだけが金色に光っていて、髪の色とマッチしてかっこいい。どこに連れて行かれるのか心が躍る。



 サプライズってこんなに嬉しいものなんだ。車で送られたあと、着いたのはラブホテルだった。こんなところ初めて来たし、オネエ様と……二人で? 顔が一気に熱くなる。


 戸惑っていると、「ラブホ女子会って知ってる? カラオケとか色々あるから楽しめると思うわ」と言われた。なんだ、勘違いしちゃった。



 破廉恥なことを想像してしまって恥ずかしくなる。オネエ様は、私とこんな所へ来ても何も思わないのだろう。チクッと胸がいたんだが、せっかくの誕生日。


 祝ってくれようとしているのに、勝手に落ち込んで。今を楽しめ、自分。


 どうやら予約していたようで、オネエ様が名前を言うと鍵を渡される。こんな感じなんだ。清潔感のあるホテルだな。エレベーターに乗って部屋へ向かう。


 すっかり私は閉ざされた狭い空間でも、発作は起きなくなった。未だに部屋は開けっ放しでないとこわいが。外で発作が起きると人の目が気になるから、そっちの方がいい。


 今や閉鎖空間よりも、包丁や通っていく車の音に敏感になってしまった。新たなトラウマのようなものが増えて、なかなか上手くいかないな。



 目的の階へ到着する。キョロキョロと周りを見渡しながら、部屋番号を照らし合わせる。オネエ様が鍵を差し込み、ドアを開けてくれた。



 部屋の中へ入った途端、愛奈ちゃんと実香ちゃんが「おめでとう!」と言ってクラッカーを鳴らした。まさか二人も祝ってくれるなんて……胸が熱くなった。


 嬉しさのあまり、涙が込み上げる。なんて私は幸せなのだろうか。こんなにも祝ってもらえて、室内は飾りが施されている。


 準備してくれたんだ。その気持ちがとっても嬉しい。泣いてしまった私をよしよしと撫でてくれる。二人には海以来初めて会った。


 久々に顔を見れたのも嬉しかった。テーブルを見ると、食べ物がいっぱいに並んでいる。どれも私の好きなものだった。餃子にピザに、フライドポテト、唐揚げ、フルーツの盛り合わせなど。


 今日は好きなだけ食べよう。皆お腹を空かせていたので、早速食事にする。


 事件の話題は出されなかった。どう過ごしていたか、時間があっという間に過ぎるといったように、楽しい話題で溢れた。気を遣ってくれているのを感じて、ジーンと心が温かくなる。


 友達っていいな。折角なのでカラオケもしようという話になった。愛奈ちゃんもオネエ様みたいに、上手く歌うより楽しむように熱唱した。他の人が歌う時は、手拍子や合いの手を入れる。



 半分ほどご飯がなくなると、カラオケをやめて「じゃあ……」と愛奈ちゃんがゴソゴソと何かを取り出そうとし始めて。



 ─────

 やばいっす。元々最終話だけ途中までしか書けてないんですよ。申し訳ない。少々お待ちください……。

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矛盾の愛と虹色の空 やーみー @yaamii

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