8.そうして、黒***

「新ちゃん?」


あの日のことを思い出していた新に、ままが声を掛ける。それで大方予想が付いたのか、ぱぱはコーヒーを一口。


「新くん、あれは俺が自分の為にやったことなの、おけ?俺は足を洗いたかった。銀座だってそろそろまともな職に就かせてやんなきゃだったし。なら警察と手を組んで根こそぎ根絶やしにしなきゃいけなかったの。俺は今かたぎさんなの。経営者さんなの、だから、もういいの、おけ?だいたいね、俺は新くんにだって言いたいだっ」


「ごちそうさまー」


新はぱぱの小言を半分以上聞き流し、出された朝食を一気に平らげ席を立ち、そしてそのまま、


「いってきまーす」


家を出た。

ドア越しにぱぱの悲しげ絶叫が聞こえたが、聞こえない。

外は、晴れていた。

青空をこうやって拝むのは、昨日もしたけれど。

清々しくて心地よい。

まるで応報を嗅いでいるような安堵感を得られるから、なお良い。


「新」


エントランスを抜けた時、肩を掴まれた。

聞き覚えのある、大事な神のそれだった。


「応報…ってどしたよ」


「う、階段を、走ってな」


肩で息をしながら、それでもお弁当の包みを差し出す。


「あ、べんと、ありがとう」


大事に受け取り鞄へしまうと、応報がようやく息を整えた。

今更改めて見つめると、いい男だった。

応報にはビジュアルの良さをまったく求めていなかったので、意外な良さにたまに赤面してしまう。


「新、さっきのな」


そっと両手を取られてしまう。


「小さな悪は中くらいの悪に罰せられ、中くらいの悪は大きな悪に、大きな悪は巨大な悪に、そして巨大な悪は、巨大な社会に罰せられる」


それはぱぱがあの夜刑事に言った台詞だ。


「まさしく、因果応報、だから新はもう、悪くない」


両手で新をあやし、言葉を奪い、


「新は、ぱぱさんとりかままさんを許した」


誇らしいと胸を張り、


「本当に良い子だぞ」


幸せそうに笑うから。

新はもう邂逅するのを止めようと思った。

餌にされ良いようにこき使われ、奪われ、育てられ。

最後は救って貰って。

憎いのに感謝の気持ちで一杯になって。

でも、そういう風に思えたのは、目の前にいる神のおかげだったから。


「応報も、すっげー良い神さまだよ」


俺だけのな、と囁いた。

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これ黒(仮) 狐照 @foxteria

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