可愛い子と眠ってから、踊った






もうぅきもちーのやだぁ











泣かない子だったのに、そう泣いて泣いて俺にお願いしてきた。

それも含めて可愛すぎて、俺はついつい意地悪してしまった。

そうするとやらやらって泣いて、恐がって、俺にすがりついてきて。

たしゅけてって、俺をぎゅうって抱き締めてくれて。

汗ばんだ肌くっついて、熱さが交換できて、きもちよかった。








サイレンが鳴ってる。

またモンスターの襲撃だ。

最近激化してる。

けたたましい。


可愛い子はサイレンに慣れているからか、安らかに眠っていた。

こうやって見ると本当に幼い。

童顔って言うけど、そういう問題じゃあないと思う。


可愛い子の頭をついつい撫でしまう。

そうするとパチって、可愛い子が目を覚ました。

ゆらゆら黒の瞳孔揺らして、俺を見つけてふにゃって笑う。

可愛いので俺もつられて顔が歪んでしまった。

俺は睨んでるつもりなんだけど、どうやら笑ってるらしくて、可愛い子が嬉しそうに俺の頬を撫でてくれた。


「…サイレン、近い」


「そうだね」


掠れた声でぽつっと言われ、俺はまだサイレンが鳴っていることに気が付いた。

どーでもよかったから耳に入ってなかった。


壁に立て掛けといた長剣が、ほのかに発光しはじめた。

神々しいってゆうやつらしいけど、俺はあんまり好きじゃない。


「…」


「…戦いたく、ないんでしょ?」


「…」


「戦うの、恐いんでしょ?」


「…」


「…殺すの、嫌なんだろ?」


「…」


返答はない。

その変わりに俺の手をぎゅっと握り締めてくる。

俺はよしよしって、頭を撫でてあげた。

可愛い子は辛そうに、目を瞑った。

サイレンが、おやまた近寄ってきた。


俺の可愛い子。

本当は戦うのが嫌いな子。

苦手な子。

殺すのが嫌いな子。

殺されるのが怖い子。

だけど英雄十傑に選ばれて、戦えって、強いから戦えって、強制され続けた子。

長剣に命令され続けた、可哀想な子。


期待されて逃げ道失って、強い子演じた子。

本当は優しくて、大人しい子。


「あのね」


「うん」


「俺は情ってもんがわかんないんだ」


「…うん」


「血族がどーなーっても、侵略先の星がどーなっても、どーでもいいんだ…君以外は」


「…」


「…だから、わがまま、言っていいよ。俺ね、君が、好きなんだ」


「…っ」


可愛い子がものすごい勢いで起き上がり、俺に抱き付いてきた。

おお、ちょっと驚いちゃった。

しばらく身体くっつけるのも嫌がられるかと思ってたのに。

それにしても好きって伝えるってめちゃくちゃ恥ずかしいのな。

俺、こんなに恥ずかしいって感じたの初めてだ。

めっちゃ熱い。

熱いから、バレちゃうのなんか恥ずかしいから、ちょっと離れてほしいかも。


「…おれも、すき…」


なのに、潤んだ瞳でそんなこと、今言う?可愛い子。

俺はなんか顔が溶けてる感じしなら、可愛い子をぎゅって抱きしめた。

ああ、これが。

愛しいか。

可愛い。

愛しい。

なるほど、似て非なる。

この子にだけ感じる、熱量。


「だーい好きだよ」


「おれも…すきぃ…」


見つめ合って、ちゅぅってした。



空気読んで欲しかった。

折角俺が可愛いと愛しいの区別ついた大事な瞬間だったのに、窓を破って血族登場。

しかも英雄十傑もドアを蹴破りご登場。

空気、読め。


俺は寝具で可愛い子をぐるぐるに包み込んだ。

裸は俺のもの。

つーかこの子は俺のもの。



「マールドゥっ!助けてくれっ」


「紀平っお願い戦ってっ」


可愛い子をぎゅうって抱き締めてたら、そんなことを叫ばれた。

紀平ってのは可愛い子の名前。

マールドゥって久しぶりに血族から呼ばれたな。


「やだよ。だめだよ。俺はお前たちを助けない。この子はもう、戦わない」


務めて優しく言ったつもりなんだけど、みんなへたって腰を抜かしてしまった。

しかもお洩らしとか、汚ねぇなぁ。


胸の裡の可愛い子がもぞもぞ動いた。

大丈夫、殺したりなんてしない。


「…どうする、俺の可愛い子」


そのかわり、言ってごらん。

俺に、言ってみ?


「…あ…助けて、やって、くれ…」


「助けてほしい?」


「…助けてほしい…」


「俺が、助けていい?」


「マールドゥに、助けて欲しい」


可愛い子がもぞもぞごそごそ、俺にしがみつく。

ああ、しょうがない。

こんな可愛い子のお願いだもの。

それがどんなお願いでも。

叶えてあげたくなる。


「よーし、じゃあ、助けてあげる」


目を見て任せとけ。

嬉しいって可愛い子が涙を流した。

だから俺は、可愛い子抱えて飛んで踊った。

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