3話

ゴウガイの足跡が通路に残る。

緑の足跡点点点。

ゴウガイはゴミ袋の前に立ち、無造作に踏みつぶす。


ぐちゃぐちゃぐちゃ


生牡蠣を踏みつぶしたらこんな音。

それだけのこと。

シンザはゴウガイの手をひっしと掴み、処理が終わるのを待った。


「あとは、清掃員さんに任せようか」


「そう、だな」


視界の端に緑色一杯のゴミ袋が入ってしまった。

シンザはもう今日はまともに働けそうもないと、息を吐く。


「…今日、さぼっちゃう?」


「…ん」


それを察したゴウガイは、シンザの手を取り直し歩きだした。

軽やかな裸足。

白いハーフパンツに白いシャツ。

少し癖のある髪も白い。

それがゴウガイ。

この建造物に棲む男。

行き詰まりの階段の先から現れる男。


ゴウガイはポケットから端末を取り出し「清掃員さん?お掃除よろしくです」完璧主義者の清掃員に連絡をした。

それから「今日はシンザ働けませんので」シンザが働く喫茶店の店長にも連絡をした。

ゴウガイの存在は、建造物で店を構える者管理する者に認知されていた。

というよりも、ゴウガイに認められない者はこの建造物で働くことは出来ないのだ。

ゴウガイにお前はここに居てはいけない、と拒絶された者は何人もおり、中には無視に店舗を構える者もいた。

彼らはことごとく悲惨な最期を迎えており、ほとんどが死んでいる。

恐ろしい存在だと思った。

その倍、シンザはゴウガイに興味を持った。

喫茶店の面接時に、店長の隣に彼は居た。

その時からシンザはゴウガイに夢中だった。

ゴウガイが居るから、こんな不気味なことばかりおこる場所に十年も務め続けることができたのだ。


ゴウガイは、ぺたぺたぺったん通路を歩き、行き詰まりの階段の前に着く。


「シンザ、良い?」


「…うん…」


ゴウガイは階段を昇って行く。

シンザも手を引かれ昇って行く。

行き詰まりの階段。

その先は行けない。

当然だ。

でも、ゴウガイは手を引いた。

おいでよと。

その先は光の無い真っ暗な、多分壁。

でも引かれる。

シンザは、玉砕覚悟でゴウガイに告白した時のことを思い出した。

あの時もこうして手を引かれた。

こっちに来れるなら、俺と付き合って下さい。

ゴウガイはそう言った。

付き合ってほしいのはこっちだ。

だから、踏み出した。

あの時も、今も。


「俺の住処にようこそシンザ。さあ、遊びましょー」


黒目と白目が反転した、呑気そうな男が笑ってくれたから、シンザはうんと頷いて享楽に耽ることにした。


そこが何処だか分からない、多分おそらく建造物の裏の世界だったとしても。

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朝番シンザは緩衝材に恐れをなした 狐照 @foxteria

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