10.芹乃ち栄う日**

けれど末棄はそれを、以前のように透過させ、信頼せず頼らず受け入れず。

末棄は時々、


「金貯まったら何処か…そうだ渡り鳥を追う旅に出るのとか良くないか?会社は…別にいいだろ、もう」


と、おちみずグループを辞めたい的な発言をするようになった。

もちろん酷はそれに賛成の首肯。

そんな素直な酷に、末棄は春の新作タンブラー片手に、


「でもお前を維持するのにアムリタいるし…無理だな…」


苦笑いで格好付ける。

そんなこと気にしなくても良い、そう言う前に「お前にはいつまでも可愛く格好良くあって欲しいんだよ」欲目を零す。


「後、俺も長生きしてお前と生きていきたい」


そんな輝かしい顔で言われたら、毛嫌いしている変若水にいくらでも居て欲しいと酷は思ってしまった。

ただここ最近は屋敷でも何処でも付かず離れず末棄に取り入ろうとする親戚が多いので、いよいよ彼の血縁に手を出してしまそうで困っていた。

末棄は末棄で、まぁまぁと酷を宥めるが、目ではやってもいいよ、が浮かんでいる時がある。

あの時飛びかかって良かったのかどうか。

酷はそんな末棄を見て、思わず見とれてしまった。

もうそれを隠すことない酷に、他強化人間は首を傾げるが、心ない彼らに酷の行動など理解出来ない。

酷は改めて、撫子以外の強化人間を憐れみ、この末棄を独占して守れることに愉悦。

美しいのど元を眺め続ける。

酷は、急所と名付け、好きな部位をただ見つめていた。

上下に動くその仏、美しい。

通話を終えた末棄は、息を吐き指示を出す。


「その他右左脱出ルート確保、鷹宗は首藤を護衛しろ、首藤は大人しく付いていって下さいデートがしたいなら。後方は俺と酷で固めます」


首藤が不満げな声を上げたが、末棄は無視し行動を開始させる。

末棄が酷に背を向ける。

その他右左が先導してドアを開ける。

次に鷹宗その横に首藤。

自分はただ末棄を守ればいい。

酷は顔が見れないことを少し寂しいと感じた、感じたそれを前のように押し込め護衛に集中しようとした。

無駄な感情は冷静な判断を誤らせる、そう思って。

末棄がふと立ち止まり振り返る。

なんだ注意事項か?と思う酷に、末棄は触れるだけのキスをした。


「じゃ、頼むな、酷」


そう言って微笑む末棄。

その輝きは誰にも見せたくない、自分だけのものにしたい。

美しい。

その言葉に限る。

足取り軽やかに踵を返し、絶対の信頼を自分に寄せる愛しい末棄の背中を、酷は見つめた。

もっと輝け。

願わくば自分だけに。

そのためだったらなんでもする。

酷は両腕を伸ばした、抱き絞めるに似た、黒い弾丸。

芹乃ち栄う日。

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世紀末の廃棄物は残酷な生き物を好む(仮) 狐照 @foxteria

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