10.芹乃ち栄う日*

輝く末棄は美しい。

酷は今はもうそれに目も背けず見惚れる。

笑うのも悩むのも怒るのも。

感情を剥き出す末棄は輝いて美しい。

あまり忙しいのは、良くないけれど。


今末棄は、無駄足無駄足、無駄足って言葉知ってるか?あんた父親になるのに、まだ無駄足って言葉しらねぇの?大丈夫?

等と、駄目しかない実兄首藤を罵っている真っ最中だった。

うんざりってのはな酷、底が知れないんだぜ、と末棄は先日酷にそう何故か誇らしげに言っていた。

そんな底掘らなくても良いのに、と酷は思った。

仕事に真面目な末棄は、今日も今日とて採掘作業。

無能を反省しない首藤の所為で、また黒い仕事をしている人と商談破談抹殺済み。

信用商売故に断るのもちょっと、ってなもんで来る者拒まず。

なんで選んだこんな相手をとこっぴどく兄を叱る弟。

そんな兄弟の周りを手に手を取って踊るその他右左。

鷹宗はいつも通り空気読まず、転がった死体で今度は組み体操をさせていた。


異常な光景だったが、首藤に罵声を浴びせることでストレスを解消している末棄を酷は見守った。

異常の中で正しくあろうとしてくれる。

真面目な末棄は最近覚えた、素敵という言葉がよく似合う。


「この無脳が。あ、脳が無いで無脳な。改名して変若水無脳にしろ」


そう兄を切り捨て、末棄は鳴った電話に出た。

首藤は弟にたっぷり絞られ半泣き、次の瞬間そうだ今日はデートだぁと浮上。

そんな彼の子供を宿した撫子は順調に二ヶ月目。

酷は今度はいつ会えるか、末棄に聞いたらなんでそんなに撫子様に興味あんの?と嫌な顔をされたのを思い出す。

これこれこうだと説明したら、ふーんと返されたが。


今思えば、あれは嫉妬だと。


酷は愉悦感に頬が緩んでしまった。

戻れ戻れと両頬を揉む。

末棄は相も変わらず年も明けたというのに、仕事に追われていた。

身につけているスーツも靴も新品だ。

目玉が飛び出るほど高級なものを身につけちゃんと手入れをし、髪も切りそろえ、あの無頓着な姿から一変していた。

酷に対する想いを成就させたことで、末棄は以前よりより効率的に、有能に仕事をこなすようになっていた。

生産ラインの問題やどこかの変若水さんが犯したミスの帳尻を合わすフォロー。

親戚の無理難題に、夏の新作コラボ企画。

イベントにどのアイドルを呼ぶか。

改装はいつにするか。

外装はこれでいいですか?

今現在の通話相手は、最近上客とあるマフィアさん。

末棄は流暢なイタリア語で急な商談にはいええ大丈夫です。

以前の末棄だったら苛々も通り超し、機械か人間のような対応をしていた。

けれど今はどこか急がしいを楽しむように軽やかに察そう。

ただ、首藤を叱る頻度は変わらず。

おかげでおちみずグループは更に利益を上げていた。

今や末棄無しでは会社は回らないほど、末棄に依存している。

祖父も父も、末棄を罵倒することが出来ず、時には末棄にその事業止めましょうと言われてしまうことしばし。

末期に似た、を言う者が少なくなり。

頼る者も増えた。

慕う者も現れた。

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