透明な仮面
神山モン
透明な仮面
社会人になって初めて勤めた職場では、人間関係でつまずき、メンタルを病んで退職してしまった。
もう1度社会に出ることはできたのだけれども、『あの失敗を2度と繰り返してはならない』。と私は強く思った。
そして、実践したのは仮面を被ること。
人の悪意に怒りを感じてもひたすら笑うようにした。
泣きそうになったら目に渾身の力を入れて涙をへこませた。
相手と意見が違っても否定はすることなく肯定するようにした。
『あなたに敵意は示していません』と必死にアピールしていたのである。
あの時の私は、山賊に酒をかけられても怒ることなく大笑いするシャンクス(※)みたいになりたかった。
※小田栄一郎先生の『ワンピース』第1話の場面
仮面を被ることで、最初の職場にいた時よりも良好な関係でいられる人は増えたかなと感じる。
しかし、どうしても埋められない溝はある。
やはり、徹底的な攻撃型の人と相対するとどうしてもストレスが募った。
仮面を被り続けるけれども、攻撃の手は緩めない。むしろ、加速する。
なぜこうなってしまうのだろう?
その答えは自分中心心理学を提唱する石原
この本には以下のことが書かれており、この文章を読んでしっくりときた。
「自分の言動だけでなく、態度や表情、振る舞い、ふとした仕草、立ち方、歩き方、喋り方、その人の内面から醸し出される雰囲気すべてが、相手に情報として伝わっています。
もちろん、相手からもその情報を受け取ります。仮に自分では気づかなくても、無意識のところでは気づいています。
自分が気づこうが気づくまいが、お互いに、こんな情報を交換しながら人間関係は成り立っているのです。」
(石原 加受子・『なぜか「まわりは敵だらけ⁉︎」と思ったら読む本』より引用)
いくら相手の攻撃に対する怒りを隠したって、本心では腹立たしくて仕方がなかった。
相手の言っていることを肯定したって、本心では『ちょっと何言ってるかわかんないですけど』と思っていた。
いくら隠したってその本心がバレていたんだろうな。
仮面を被っても、その下にある本当の顔は相手に見えていたのである。
結局私が被っていた仮面は【透明な仮面】だったということだ。
徹底的な攻撃型の人から見ると、私の腹立たしく思う本心は透けて見えていたのだろう。
はたまた透明な仮面をさぞかし武器のように扱っていた私が滑稽に見えたかもしれない。
そんな光景を見ると、『もっと攻撃してやろう』と考えるだろう。
自分を守るために、透明な仮面を被ることに必死になればなるほど攻撃される。
この悪循環を絶つためには、『自分の気持ちに素直になる』ことが必要なのかもしれない。
どうせ攻撃されるなら『あなたの言動に腹を立てている』という意思表示をたまには見せてもいいのかもしれない。
そうすれば、攻撃されるばかり・ストレスを貯めるばかりではなく相手への適切な対応も見つかるかもしれない。
適切な対応というのは、喧嘩をすることではない。喧嘩をすると自分が不利になる。
不利にならないために、ある程度の理性は必要である。
仮面を被ろうと努力したって案外その仮面は相手にバレていることばかり。
だったら、『自分に素直に』生きてみたっていいのではなかろうか。
ちなみに、私が憧れていたシャンクスは酒をかけた山賊を『応戦して殴る価値もない相手』と見なしていた。
決して腹を立てていたわけではない。シャンクスの強さだったらそうだろうな。
大笑いしたのは素直な気持ちを表しただけであって、端から仮面など被っていなかったのである。
透明な仮面 神山モン @kamiyamamon
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