第151話大猿ハヌマーン3
限界まで身体を伸ばして、魔力をこめて突き出した『飛突改、魔突』。
ひねりながら伸ばしたその剣先は、肉を骨を抉るように吸い込まれていく。まるで手応えがないようにスッとハヌマーンの右太腿に風穴を開けた。
今日もマジカルソードの斬れ味は絶好調だ。
グオオオオオオウオウオオオオオ!
森全体を震わせるような激しい叫び声。
ジョーカーさんに言われるまでもなく、ここは即離脱。追加攻撃で倒しきろうなんて考えはこれっぽっちもない。それほどにハヌマーンのパワーは脅威だ。
ジョーカーさんですら防御に徹してもかなりのダメージを受けている。僕が落葉斬りを使っても、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされるだけだろう。
ハヌマーンは、まだ視力の回復はしてないだろうし、今はそれどころではない足の痛みに怒りをあらわにしている。
そのまま近くにいようものなら、その暴れまわる動きに巻き込まれかねない。
とにかく逃げ切ることが今のところの目標だけど、もしもハヌマーンが森を出ても、さらに追いかけてくるようなら逃げる方向も考えなければならない。
人が住む場所や商会の馬車が通る街道方面は絶対に避けなければならないだろう。
「いつリンドンシティに戻れるのやら……」
仲間がいればハヌマーン一体なら倒せる可能性は高い。みんなと連絡の手段があればそういうことも考えられる。それほどまでに僕は強力なパーティに所属していたということだ。本当に恵まれていたんだ。
AランクのキャットアイにAランク相当の遠距離攻撃力が見込めるアルベロ。強力な攻撃力があるこらこそ、僕やルイーズの役割は盾持ちだったり遊撃やスピードにより場をかきまわすことが求められている。
少なからず、特訓前と今とでは俊敏のステータスはかなり上がっている。
冒険者ランクD
ニール・ゼニガタ 男 十七歳
体力D→C、筋力D、耐久C、敏捷D→B、持久力D→C、魔力D→C、知能B
魔法適性 火D、無属性(発火、注水、光玉)
予定通りに敏捷ステータスがかなり上がってくれたのは心強い。Bって結構すごいステータスだと思うんだ。魔力と持久力が上がったのは相当数のドランクモンキーをマジカルソードで狩ってきたからだろう。
ちなみに何故か無属性魔法の光玉が使えるようになった。でもどうせなら清浄が使えるようになりたかった。あの魔法、便利すぎるんだよね。
さて、そんなことを考えていながら逃げているわけだけど、ハヌマーンは相変わらずこっちを追い掛けている。
後ろは見てないけど、木をなぎ倒す音が近づいてきていることからもわかる。そろそろ諦めてもらいたいのだけど、マヌルー成分製造機を逃してはなるものかという強い意志を感じずにはいられない。
せめて、両足を何とかくり抜いておけばよかっただろうかでも。多分、できなかったけど。というか、あの場から離脱するのが少しでも遅れてきたら暴れるハヌマーンにやられていたのはこちらの方だろう。
「ニール、キャットアイ様を呼んできてくれ」
「呼ぶって言ったって、走って一日掛かったんですよ!」
ステータスが上昇した分、もう少し早くは戻れると思うけど、それでも往復で一日半は掛かってしまう。その間、どうやってハヌマーンを抑えておけるというのか。
「それぐらいなら何とか持たせてみせる」
「そんなの……無理ですよ」
「俺のスキルは知ってるだろ」
ジョーカーさんのスキルはデコイとステルス。確かにこの二つの組み合わせなら時間を稼げる可能性はある。
「それでも、無理です。せめて、もう一方の足を潰せたのなら考えますよ」
「そんな時間がないのはニールもわかってるだろ」
「だったら、リンドンシティまで引っ張っていきましょう。そうすればみんなが手伝ってくれます」
「街にランクAの魔物を呼ぶアホがいるか。一生牢屋で暮らすことになるぞ」
そりゃそうか。手におえないからって、都度街に逃げ込んでたら大変なことになる。
連絡手段、連絡手段。誰かと少しでいいから話ができれば……。
『呼んだ? 主はいつ帰る。ルリカラ、つまらない』
「えっ、ルリカラ!?」
テレパシー的な感じだろうか。いつもなら顔をみながら話をしているのだけど、こんなに距離が離れても話だけはできるしらしい。
「どうしたニール」
「ルリカラと話ができます。うまくすればみんなに来てもらえるかもしれません」
「ほ、本当か!」
「ちょっと、やってみます!」
森の中を逃げながら何とかルリカラに状況を説明してみる。
「ルリカラ、僕は大きな魔物に襲われていて助けが必要なんだ。みんなを連れてここまで来れるかな?」
『わかった』
「おー、わかったの。えらいよルリカラ。みんなは、来てくれそう?」
『わかんない』
「えっ、わかんない? 何がわからないの?」
『ルイーズわしゃわしゃしてくる』
つまり、何も話は伝わっていないということか。きっとルリカラが近づいてきたからルイーズは撫でてほしいと思ったのだろう。
どうすればみんなに伝えられるのか。
「今、どこにいるの?」
『みんな訓練』
外にいるのか。ならば、可能性にかけてみよう。
「地面に文字は書ける?」
『わかった。獰猛な嘴、書く』
「書いてほしいイメージを伝えるよ」
ニールたすけて。ニールたすけて。ニールたすけて。ニールたすけて。
異世界の文字は僕もまだ勉強中だけど、これぐらいの文字ならわかる。ルリカラでも頑張ればきっと書ける……はず。
『書いた。みんな、来る。大勢来る』
「ほ、本当に! よくやったルリカラ、えらいっ」
大勢というのは、全員ということなのかな。ジョーカーさんとトルマクル大森林に向かったことはみんなも知っている。
あとは、大森林から街道にかけて目立つ場所でハヌマーンの攻撃をこらえるのみ。
「ジョーカーさん! みんな来てくれます。何とか凌ぎましょう」
「わかった!」
スキルガチャで異世界を冒険しよう つちねこ @tsuchineko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。スキルガチャで異世界を冒険しようの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます