第150話大猿ハヌマーン2
後ろは振り返らずにとにかく走る。
ドッシーンという大きな音が聞こえているのでハヌマーンが倒れたのは間違いない。
ドランクモンキーも僕が置いていったマヌルー玉の方へ集まっているようで、追ってくる数はそこまで多くない。
これなら、何とか逃げ切れるだろうか。
「油断するな」
近寄ってくるドランクモンキーを斬り伏せてつつ走っていくジョーカーさん。
「は、はい」
「ドランクモンキーは無理に相手をしなくてもいい」
「了解、ですっ!」
そう返事をしながらも追ってくるドランクモンキー目掛けてマヌルー玉を投げる。
「それでもしつこい奴は足を潰せ」
ジョーカーさんは落葉斬りでドランクモンキーの攻撃を躱していきながら、スピードを落とさずに機動力を奪うカウンター攻撃で斬り伏せていく。
その動きは僕も真似していこうと思う。スピードを緩めずに、来る攻撃に対しては落葉斬りでパリイしていき、隙を見せたドランクモンキーの足を狙ってダメージを与えていく。
うん。問題ない。ずっとドランクモンキーを相手にしてきただけあって、僕自身、ドランクモンキーの動きや攻撃の狙いは手にとるようにわかる。
「ちっ、来やがった!」
言わないでもわかる。この地響きとマヌルグの木をなぎ倒すようにやってくる激しい足音はハヌマーンだ。大量に置いていったマヌルー玉には見向きもせず、何で僕たちを追いかけてくるのか。
ひょっとして、転ばされたのを根に持っていたりするのだろうか。好きなだけマヌルー成分をプレゼントするので止まってほしい。
「ぬわぁ!」
しばらくすると、ビュンッという音とともにマヌルグの木が飛んてくる。何なら近くにいたドランクモンキーまでもがこちらに投げ込まれてくる。
足音はかなり近くまで来ているように感じるし、このままだと間違いなく追いつかれてしまう。
怖くて見れなかったのだけど、意を決して振り返ってみたもののそこには何もいない。すると、すぐ隣から木をなぎ倒す音が聞こえた。
「ひ、ひぃ!」
ハヌマーンは僕と並走するようにして走っており、その紅い目は間違いなく僕を捉えている。何で、僕!? まさか、僕の身体にマヌルー成分でも染みついてしまってるのだろうか。
「そ、そんなに欲しいならあげてやる」
走りながらもマヌルグの木をインベントリに入れてすぐに粉を周辺にばら撒いていく。
その攻撃にドランクモンキーは耐えきれずに悶えていくのに、ハヌマーンは益々僕を追いかけようとしてくる。
「ニール、ハヌマーンはお前を手に入れようとしている」
「えっ、どういうことですか?」
「ニールが入ればいつでもその粉が手に入るだろう」
つまり、捕まったら最後。ハヌマーンに死ぬまで粉をつくり続けるマシーンにされてしまうということか……。
「い、いやだー!」
僕のその叫び声と合わせるように、ハヌマーンの手が伸びてくる。
「お、落葉斬りぃ」
必死にパリイするものの、勢いを殺せずに吹き飛ばされていく。
更に追い詰めようと近づいてくるハヌマーンを止めようと間にジョーカーさんが立ちふさがるものの、その目は僕しか見ていない。
体は動く。逃げようにもまだ森を抜けるにはかなりの距離がある。ここで、僕だけ先に逃げたとしても、きっとすぐに追いつかれてしまう。
ならばここはジョーカーさんとの共闘でさっきみたいに時間を稼ぐのがいい。
大地割りは一度見せているから避けられる可能性が高い。でも、狙いはやはり足だ。ハヌマーンから少しでも機動力を奪えれば、それだけ助かる可能性は高くなる。
ジョーカーさんは周辺の木々を利用してハヌマーンの頭に狙いを定めて攻撃を繰り出している。僕に合図を送るその仕草からは、隙をつくるから足を狙えと言っている。
僕は木に隠れるようにしながら、その瞬間を逃さぬようにハヌマーンとの距離を詰めていく。
ジョーカーさんが僕に最終アタックを任せる判断をしたのには理由があって、それは大地割り以外にも初見殺しの必殺技がもう一つあるからだ。
ハヌマーンは顔の周りで動き回るジョーカーさんに苛々とした表情をみせている。ジョーカーさん、致命打を与えることはできないが、しっかり足止めしつつハヌマーンの隙を生み出そうとしているのはさすがだ。
そして、そのタイミングはすぐにやってきた。
「光玉!」
通常攻撃で使用する魔法ではないものの、急に目の前が光り輝いては視力を奪われる。それがハヌマーンのような巨体だったら、その目も大きいので効果は覿面。
目を覆うようにして腕を上げて立ち尽くしているハヌマーン。足下はこれでもかと完全にさらけ出されている。
「飛突」
身体をひねりながら全身を突き出すように伸ばす突き。この突きにはマジカルソードを持った僕には更に剣が伸び斬れ味が増すことで、えげつない必殺技へと昇華する。
「改、魔突!」
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