第100話直人の気持ちが固まる 杏里と呼んで 聖女神アフロディーテの思い
直人は、部屋に入り、鍵をかけた。
沢田副支配人が泣いていたけれど、彼女と話をしたくなかった。
(何か言えば、また怒られそうな気がしたから)
メイドの杉本瞳と南陽子も、もちろん、部屋には入れない。
タブレットに「お食事の件」とメッセージがあったけれど、「不要です」と返した。
とにかく、理屈では、子供っぽいと思うけれど、気持ちの整理がつかない。
命を救ってもらった立場もわかる、でも、自分に原因がある事件ではない。
女性たちの喜ぶ顔も、確かに「尽くして」良かったと思う。
でも、あくまでも、疑似恋愛のようなもの、「本気の恋愛」ではない。
単なる「捨てられ、閉じ込められた女性の、性的欲求不満の解消道具」に、自分の「性」を「都合よく」使われているだけと、思う。
少なくとも、自分が望んだ「交情」でもなく、「恋愛」とは、程遠い。
確かに生活は楽だ。
何をするにも、金はかからず、食事も美味しい。
「でも、楽だけが、人生なのだろうか」
「勉強に苦しみ、恋愛に苦しみ、家族に、金に苦しんでも・・・自由のある普通の生活のほうが、人間らしいのではないか」
直人は、寄せては打ち返す紀州の海を見た。
白い浜辺で貝遊びをする子供が見える。
「いいなあ・・・あそこで遊びたい」
しかし、すぐに首を横に振った。
「外に出れば、テロリストのエジキか」
「あの可愛い子供たちも、俺の巻き添えで殺されかねない」
「俺は、そんなことに、あの子たちを巻き込みたくない」
「泣く親の顔も、見たくない」
「結局は、豪華な軟禁状態なのか」
「でも、俺は、犯罪者ではない」
「馬鹿なテロリストが、間違えただけだ」
直人はベッドに転がり込んだ。
「耐えるしかないのか」
「出られない以上」
このアフロディーテ・ホテルに移って以来、何度も考えて来たテーマである。
「他の人も同じ・・・と言えば、確かにそうだ」
「俺と同じように、人違いで入っている人もいるかもしれない」
「詮索する気もないが」
「結局、グダグダ悩んでいるのは、俺だけかもしれない」
そんなことを思ったら、かつて東大寺二月堂の看板で見た言葉を思い出した。
「我慢の時 心静かに風流を楽しむべし」
(ストンと、心が入れ替わった感覚があった)
直人は、沢田副支配人の泣き顔が気になった。
酷いことをしたと反省した。
(風流も何も無い、自分自身が情けなかった)
入院以来、ずっと親身になってお世話してもらいながら、泣かせてしまった。
メッセージを送った。
「ごめんなさい」
「前向きに、生きます」
すぐに返信があった。
「ドア開けて」
直人は、驚いてドアを開けた。
沢田副支配人は、泣きながら抱きついて来た。
(ずっとドアの前で泣いていたらしい)
「何でもいい、メチャクチャにして」
「直人君に、そうされたいの」
「私に、直人君の悩みも苦しみも、全部ちょうだい」
喘ぎながら、もう一言あった。
「名前で呼んで、杏里って」
全てが終わった。
「直人君、すごかった」
「メチャクチャどころじゃないよ・・・」
「もう・・・腰が立たない」
「杏里」は、美しい胸を直人にペタンとつけた。
直人は、しっかりと抱いた。
「杏里・・・杏里ちゃん・・・って言おうかな」
杏里の身体がビクッと震えた。
「それ・・・そそる・・・」
「でも、うれしい、私、もう・・・直人君の女だよ」
紀州の空が赤く染まりはじめた。
直人は、目に涙を浮かべた。
「かなり悩んだけれど」
「ここで、生きます」
「努力して、喜ばれる人に」
「我がまま言ってごめんなさい」
杏里は、直人をしっかりと抱いた。
「可愛い、大好きなの」
「悩んでも、直人君が好きなの」
「だからここに、新宿から・・・我慢できなくて追っかけたの」
「・・・かなり年上でごめん」
直人は、杏里のお尻をポンと叩いた。
「杏里、お風呂、行こうよ」
「それから、おなか減った」
「ピザ食べたい」
杏里は、笑った。
「うん、まずお風呂、ピザね」
お風呂でも、二人は、愛し合った。
そして、今は仲良くピザを食べている。
そんな二人を神界から見ながら、聖女神アフロディーテは、喜んでいる。
「人の血やら戦乱、涙を好む神もいるけれど」
「私は、そんな世界も神も大嫌いだ」
「そんな世界から、苦しむ人を救おうと、各国の首脳に神の意を送り、この施設をいろんな場所に作った」
「愛し合う世界こそ、人も神も喜ぶ世界で、美しいと思うの」
聖女神アフロディーテは、杏里と直人のエロスをしっかりと受け取った。
「それにしても、あの二人のエロス・・・いいなあ・・・美味しい」
聖女神のアフロディーテの、さわやかに甘く香る喜びの吐息を受け、紀州の満天の星は、さらに美しく、輝きを増していた。
(完)
ホテル・アフロディーテ 舞夢 @maimu
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