第4話 つづく食料探索記、そして、戦闘

 キュルルはともかく、ヤモスとモリスは移動速度が非常に遅く、探索の妨げになった。そのため寝床に置いておくことにする。


「良いか。お前たち、ここを出るんじゃないぞ。俺が食料を取ってきてやるからな」


 言い聞かせてみるものの、返事はない。キュルルが「キュル!」と勢い良く鳴いたのを見て、こいつに任せてみようと思った。


「変な動物がきたら、お前が追い払ってくれよ。キュルル」

「キュル!」

 硬いクチバシはかなりの殺傷力を持っているはずだ。


 今日も今日とて食料探し。今、圧倒的に足りないのが食料だ。青きのみはどこにでも転がっているが、それ以外の目ぼしい食べ物がない。


「仕方ない」


 リスクを考慮して、砂浜を歩くことに努めていたが、今日は木陰の奥、すなわち森を散策してみよう。

 念入りに準備を行う。といってもサンダル。道中の目印に使う枝。先を尖らせた、太めの枝。(槍の役割になる)あとは、水を多めに飲んでいくことで終わりだ。

 パンツは毎日洗って自然乾燥させているが、そろそろ衣服も必要になるかもしれない。


 森を歩いていると、切り傷が増えた。見た目の問題ではなく、やはり衣服は必要だ。白いパンツ一丁では、美少女と出会っても逃げられてしまう可能がある。


 しばらく歩くと、獣道に出た。人が通った形跡があるかは分からないが、蹄のような足跡はいくつか点在。やはり、大型の動物も何匹かいるらしい。


 道なりに寝床とは逆方向に進んでいく。二時間ほど歩いただろうか。途中、赤いベリーのようなものを身につけた茂みが存在するのを発見。取って、さっそく食べてみる。


 毒の存在が懸念されるが、結局自分で食べてみなけりゃ分からない。ということで、早速赤ベリーを咀嚼。中は水というよりは身がつまっており、カロリーも比較的高そうだった。


「……多分、うまいなこれ」


 青きのみも甘味があるが、パサパサしているのに対し、程よい甘味に加えて酸味、瑞々しさも兼ね備えられている。


 ただ問題点は、赤ベリーはそれほど長期間保存が効かないこと。瑞々しければ瑞々しいほど腐りやすい。

 場所を覚えるために枝を地面に突き刺し、周囲の木にも目印を書き加える。ここが赤ベリー地帯。覚えたぞ。


 その時、背後で茂みがガサっと音を立てた。慌てて振り返ると、俺と同じように赤ベリーを求めてきたのか、小鹿のようなフォルム、しかし妙に長い三本の角を持った生き物が突っ立っていた。


「ヒュー……ヒュー……」


 子鹿もどきは吐息にも近い鳴き声を発した。その表情を見てとれるのは、明らかな警戒心。キュルルや、ヤモス、モリス夫婦とは別の反応。


 といっても相手は子鹿だ。俺は槍を腰に構えて、ジリジリと距離を詰め寄る。もし仕留められたら、何日分の食料になるか分からない。

 しかも未だに逃げる気配がない。人間を見たの自体、初めてなのかもしれない。


 と、覚悟を決めた時だった。

 目を見張る光景が飛び込んできた。


「パチッ! パチッィ!」


 その奇妙な音は、鳴き声ではない。子鹿もどきの3本の角の間で発せられていた。

 目を凝らすと、わずかに生じた光の線が3本の角の間を行き来、発生と消失を繰り返している……かと思うと、俺めがけて飛んできた。


「わっ!」


 とっさに横に跳ねる。すると、俺がいなくなった地面に、小さな電撃のようなものが突き刺さり、その場を少し焦がしたのだった。ほのかに立ち上がる煙を見て、唾を飲み込む。


 攻撃、してきやがった。

 それも、俺の想像を絶する方法で。


 ……間違いない。こいつは、単なる動物ではない。御伽話やゲームにしか出てこない、地球生物とは別の理屈で存在する生物……


 魔物、だ。


 子鹿のくせに逃げる気配もなく、俺を脅すような目を向けてきたのもそれが理由たったのか。


 くそ! 幸い、あの電撃は光のような速度では放たれない。チャージ、照準設定、発射という工程を経る以上、かわすのも余裕だ。

 しかし、相手は俺が来た道を塞ぐような形で立っている。逃げても、森で遭難するだけだ。


「パチッ! パチィィ!」


「だったら!」


 俺は咄嗟に槍を腰に構えたまま、勢い良く前進した。わずか数歩の踏み込みで子鹿もどきまで肉薄する。そして、手に持っていた槍を、喉の辺りに思いっきり突き刺した。


「ヒュ! ヒュル〜ッッ!」


 発射寸前までチャージされていた電撃がかき消えるのと同時に、子鹿もどきは血飛沫をあげてその場に倒れ込んだ。


「はあ、はあ……」


 急所に一撃。

 初めての戦闘。初めての勝利。


 しかし、ピクピクと痙攣しながら命の灯火を消す子鹿もどきを見てると、何ともいたたまれない気持ちになった。


 子鹿もどきを抱えて帰路に着く。かつてない収穫を得た俺だったが、喜びよりも、恐怖と焦りの気持ちの方が強かった。

 この世界の動物……いや、魔物たちは平気で魔法じみた攻撃をしてくる。

 呑気なやつらばかりだと思っていたが、単純に俺のいた世界とは事情が違うだけだった。


 目印として設置した枝を整理しながら寝床につくと、キュルルとヤモス、モリスが消えかけの焚き火の周りをウロチョロしてた。


「おかえり」


「キュル〜」


 子鹿もどき、いや、サンダーを放つ鹿、というのとでサンジカと名付けよう。サンジカをその場に置く。

 三匹は興味津々といった様子で俺の周りをうろつく。


 うーん。こいつをどう治療したものか。確か、こういう生物は血を抜いて、洗って、そのあと皮を剥いてから部位ごとに分けていくそうだが、あいにく自分にはそういった知識はない。


 とりあえず、食べるだけなら焼いてしまえば大抵の細菌なんかは消滅するだろうが……


 と、そう考えていると、キュルルが喉を鳴らした。「キュル、キュルー!」


 聞いたことのない鳴き声だった。俺は何かを感じて身を引く。すると、キュルルはクチバシを目一杯開き、サンジカの方に向き直った。


 瞬間、キュルルの口から発せられた炎が、サンジカの身体を包み込んだ。俺は自分のこめかみに嫌な汗をかいているのに気付いた。


 やはり、彼らも魔物だったのだ。

 新種の動物でも何でもない。れっきとした空想上の生き物。地球の理とは別の理で生きる存在……。


 ふと、目の前の三匹がこわくなった。いくら小さくて自分に懐いているとは言え、彼らは魔物。その気になれば、俺を一瞬で殺すことだって出来る……


 しかし、そんな俺の不安を余所に、キュルルは俺の顔色をうかがうように近づいてきた。少なくとも、そのつぶらな瞳には殺意など見えない。


「っ考えても仕方ねえよな。食うぞ食うぞ!」


「キュル!」


 キュルルの鳴き声と共に、三匹がサンジカの周りに集まって、皮を剥いでその肉を貪り始めた。


「キュルル。火おこしもこれからは手伝ってくれな」


 彼らを見ていると、やはり、俺のことを敵対視する未来は全く思い浮かばない。

 おそらく、テイムが完了しているのだろう。前も少し考えたが、今回の件でそれがより強化となった。


「待てよ、となると……ドラゴンなんかもいるんじゃないか?」


 思わず一人でつぶやく。

 そうだ。口から火を吹くニワトリに似た動物がいるなら、ドラゴンがいてもおかしくない。そうでなくても、空想上の生き物に近い動物……いや、魔物がいるかもしれない。


「この世界も、案外悪くないかもな」


 俺はつぶやいて、目を閉じた。

 まだ見ぬ魔物との出会い。恐怖はあるが、せっかく来てしまったのなら、楽しむしかない。

 しかし、何をするにしても当面は拠点の充実、生活の向上を目標にしよう。

 生前もサバイバルゲームを始めたばかりの時は、順序を間違えてよく死んだからな。ここは多分リスポーンとかないだろ。


 コツコツ積み上げてかないと。


 

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魔物はびこる異世界で落ち着いたサバイバル生活を @teteo1235

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