魔物はびこる異世界で落ち着いたサバイバル生活を

@teteo1235

第一章 まずは生活の安定を

第1話 あるのは真っ白なパンツだけ

 重いまぶたを開くと、雲一つない真っ青な空が広がっていた。周囲を見渡すと、どうやら砂浜の上にいるらしい。


 うーん。ここはどこだ? 一切見覚えがない上に前日の記憶もあいまいだ。

 たしか昨日は、えーと……社畜ライフに嫌気が刺して夜通しゲーム、翌日仕事なのに朝四時に就寝したんだった。


 まあ超ブラックだったからな。最悪寝坊したらそのまま出社せずやめてやろうと思ったんだが、あれ?


 確か俺が寝る寸前までやっていたゲームの舞台もこんなんだった。絶海の孤島サバイバル生活。特にストーリー性のない、素材とか集めて建築して快適に生活できるようにするやつ。

 ここが孤島かは分からないが、砂浜からのスタートが共通している。


 生ぬるい風が肌をなでる。夢とは思えないリアリティだ。でも、ちょっと海にしては磯臭くさが足りないか。

 現実の可能性が高いが、どうも違和感がある。


 まったく訳が分からないが、とりあえず暑いなここ。砂浜から逃げるように遠ざかると、膝までの高さの草が生えた茂みに入った。動き辛さもないし、ここで一旦状況を考えよう。


 まず、ここはおそらく現実。気候は熱帯寄りだろうな。海が透き通っている。青い海というより緑っぽい。沖縄の海もこんな感じだったが、より緑がかっている気がする。


「わっ!」

 

 膝に何か触れるのに気付いて思わず叫んだ。こんな茂みだ。虫か? いや、このサイズ感は……。


 3歩下がって砂浜に逆戻り。茂みをじぃっと観察してみる。すると、俺の後を追いかけるように、可愛らしいニワトリみたいなフォルムの生き物が茂みから出てきた。とさかはないが、恐竜みたいな足と、せいぜいジャンプを手助けしてくれる程度の控えめな羽が共通している。

 強いて言うなら毛が多いのか、実にモフモフとしている。可愛い。モフモフは好きだ。


「お、お前、なんなんだ?」


 動揺してモフモフドリに声をかける。名前は今つけた。当然言葉はないが、代わりに「キュル〜」という鳴き声を響かせた。


 俺の足に引っ付いてくるので、仕方なく連れて行くことにした。砂浜の上はあちい。そんで、茂みの上も、なお暑い。

 俺はノロノロついてくるモフモフドリを抱き上げて、茂みの先、木々の生い茂る場所へと足を踏み入れた。


「ああ〜マイナスイオン最高!」

 当然マイナスイオンの効果は知らない。だが、目覚めてからずっと全身に流れていた汗が、少し減った。やっぱり木陰は涼しい。


 モフモフドリの顔をムギュと優しく包み、見つめる。うーん。多分これ新種の動物か何かだな。可愛いが、クチバシの中は……そこそこ鋭い、牙もある。おそらく雑食の動物だろう。

 虫や草なんかをつまんで生きるタイプの。


 あと、まず間違いなく言えるのが、ここは沖縄なんかじゃない。海外か、もしかしたら、俺の想像も及つかない土地なのかもしれない。服装はパンツ一丁。寝る前の格好だ。何の手持ちもない。


 少し、焦った。これが現実だとしたら、俺はこれから自力で生き延びなければならない。ゲームの知識じゃまず道具を作ることから初めてたな。よし。やるぞ。


 昨日までは人生面倒くさいなと思っていたが、暑さのせいか、見知らぬ鳥のせいか、焦りはあるが、不思議と暗い気持ちにはならなかった。


 とりあえず俺はその辺の木の枝を折って、丈夫そうなものをかき集めた。枝集めはどんなサバイバルゲームでも役に立つ。そんで持って、枝の先に石を巻きつけてみた。紐の役割はその辺の葉っぱだ。

 といっても、そんなものがまずまともに使えるはずもはく、挫折。ちくしょう。疲れた。んで……喉、乾いたな。


 サバイバル生活で一番大事なものは、水だ。多分、普通の人間に聞いたらまず思いつくだろう。ゲームばっかやってたせいで、素材集めなんかしちまった。水源の確保。重要そうだな。


 俺はまず、どうしても試してみたいことがあった。地球ならこれをやるやつは、全員バカです!なんて言われそうなこと。

 砂浜に戻って海の前に突っ立つ。そして、海水を手ですくってゴクリと一飲み……


 の、飲めるぞ。これ、海水といえば塩水だが、塩気がまったくない。ぬるい水。淡水だがなんだか分からんないが、飲める。

 海特有の磯臭さ、潮風が吹き付ける感じもないのはこれが理由か。


 水平線の果てを見る。どっからどう見ても広大な海だ。やたらでかい湖って可能性もあるが、そうでなければ……


 ここはおそらく、地球ではない。


 その時、ようやく俺は合点がいった。これはもしかして、いわゆる異世界転生……いや、自身の見た目は変わっていないようだから、転移ってやつか。冴えないアラサー男のままだからな。

 ゲームばかりやっているせいで、その手の話には疎いが、可能性はある。何より、


「キュル〜」


 モフモフドリの存在がそれを裏付けている。決めつけは早計だが、それも視野に入れて生活した方が良さそうだ。海の水が飲めるなんて、地球でのサバイバルにしちゃヌルすぎるもんな。


 とりあえず、その後俺は素材集めに徹した。サバイバルゲームは素材集めに始まり素材集めに終わるといっても良いほど素材が大事。リアルサバイバルの知識は皆無の俺は、愚直に素材集めを信じてみた。


 夕暮れになる頃には、枝葉、石、強度の高そうな草を大量に採集した。途中、きのみのようなものがあったからそれも拝借。量的には不十分だが、初日はこれで良い。


 日が完全に落ちるまでにするのは、靴、というかサンダルみたいなものの制作……いや、それは明日に回そう。寝床の確保だな。


 寝床制作は、まず木陰地帯の草をとにかく踏みつけて、ならすことから始めた。その上に枝をぶちまけて、それをまた綺麗にならす。それで最後、今度は採集した草を枝の上に乗せていく。


 とりあえずこれで簡易的なベットだ。きのみみたいなものを口にして……やっぱり満腹にならない。この辺は都合良くいかないらしい。


「キュル〜」


 ひとしきり作業が終わった俺は、簡易ベッドの上に横になった。作業中かまってやれなかったモフモフドリが寄り添ってくる。犬みたいな性格だな。可愛いやつだ。


 日が落ちたので目を閉じる。ああ、自分で作っておいてなんだが、このベッド、よくない。草をならしたはずなんだが、やっぱり場所によってでこぼこしていて、寝付きにくい。


 明日また改良が必要だな。

 そう思った俺は、モフモフドリを抱きしめて、安堵のため息をこぼした。

 お前がいてくれて、良かった。





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