第2話 食べ物を求めて、そして、発見

 翌日、俺は強い眠気を感じながら目覚めた。木陰を抜けて薄目で空を見ると、太陽が頭上に登って煌々と日差しを放っていた。おそらくもう昼だ。


 昨日寝たのは確か日が落ちた頃。18時頃だろうか。強い眠気を感じて目を閉じた。そこから18時間以上寝ていたと考えると、少し寝過ぎな気もする。


 隣にいるモフモフドリもぐっすりだ。よだれを拭ってやると、身体を震わせながら目を覚ました。


「これ……」


 昨日口にしたきのみ。それがモフモフドリの嘴に引っ付いていた。少し粉っぽいその物体は、わずかに青みがかっている。


 何となくこれを口にして寝たが、もしかしたら毒か何かあったのかもしれない。痛みなどはないが、これだけ長時間寝ているのは、いくら疲れた社畜にしても不思議だ。

 しかし、身体に痛みがあるわけではないため、当面はこれで腹を膨らすか。


 とりあえずその青きのみをまた集めてから、俺は今日の目標を決めた。拠点をリッチにするのがサバイバルゲームの基本目的だが、さすがにここでは腹が減る。

 きのみ以外の食料を確保すべきだろう。


「キュル〜」

 と、モフモフドリが少し潤んだ目を俺に向けた。ああ、そうか。こいつを食うっていう手段もあり得るな。

 しかし、初日の夜、こいつがいてくれたことで大分心が楽になった。

 何もしてやれてないが、とりあえず俺に懐いているようだしペットとして扱おう。


「お前……いや、名前がないと可哀想か。呼び方通りキュルルで良いか。それともモフ……いや、今後モフモフのペットが出来た場合、困るか。よし、お前はキュルルだ!」


「キュル、キュル〜」

 キュルルは言葉の意味が分かったのか、羽をパタパタとさせて鳴いてみせた。うん。可愛い。異世界に来たかもしれないのに、美少女や特殊能力発動イベントはないが、お前がいる。


 キュルルを引き連れて、俺はあたりを散策することにした。

 ここでも昨日大量に集めた小枝が役に立つ。適当なサイズに折ってたまに地面に放るか、突き刺すだけで目印となる。これで迷うこともないだろう。

 まず砂浜に出ると、喉を潤してから少し身体を洗い、海沿いをとぼとぼと歩いた。キュルルの歩行速度はちょうど俺と同じくらいで、これも犬と同じようで楽だ。昨日ノロかったのは疲れていたのだろう。


 しばらく歩いていると、砂浜の上に、硬い甲殻を持った平べったいものがのそのそと歩いているのを発見。虫、にしてはサイズがでかい。手のひらを広げてくっつけたくらいある。子供の頃好きだった恐竜図鑑で見た、三葉虫みたいだ。


 ただ、動きが遅く、脚が見えないためそれほど不快ではない。


「キュル〜! キュル〜!」

キュルルが珍しく強く鳴き声を発しながら、短い足で一生懸命走り出した。当然向かうはその平たい虫のところ。


 キュルルはその虫を突っついて、食べ始めた。弱肉強食。少し目を背きたくなる光景だったが、こいつの分のきのみが浮くだけでもありがたい。


 しばらくキュルルはそこから離れようとしなかったため、また小枝、石集めに徹する。といっても少し寝床から離れたところなため、持ち帰れる量にしなければ……これは鞄やリュックのように、積載量を増やせるものが必要だな。


 現状、作りたいものリスト

 サンダル、鞄やリュック、カゴに近いもの。


 スケジュールは簡単だ。

 日が昇ってる内は散策と採集、可能なら狩りをして素材、食料集め。日が落ち始める前に寝床に戻り、拠点の整理や装備の作成に取り掛かる。


 よし。しばらくこれでいこう。


「キュル」

と、キュルルが足に擦り寄ってきた。ひらたい虫を見ると無惨にもお亡くなりになられていたが、外側の硬い殻は健在だ。

 役に立つかもしれない。俺はそう思い、その殻を拾った。


 また海沿いをずっと歩くと、貝殻をいくつか採集することが出来た。また、打ち上げられたであろう海藻も。


「お」

 ようやく、俺は虫と鳥以外の動物を見つけた。ヤモリのような見た目をしているが、やはりサイズがかなり大きく、キュルルと同じほどだ。しかも二匹。

 相変わらずのんびりと海沿い、しかし茂みとの境あたりをぶらついているため、俺は呆気なく二匹を捕獲。少し道中で手に入れた資材を捨てることになったが、動物の方が優先度は高いだろう。


 あっさり成果を得た俺は、一度寝床に戻り、二匹の動物に先日食べた青きのみを食べさせてみた。すると、俺の予想通り彼らはパタリと意識を失い、その場に倒れ込んでしまった。


「間違いない」


 俺が今日の昼まで目覚めなかったのは、この青きのみによる強い眠気が原因だったのだ。幸いこのあたりではかなりの量が取れるため、今のところではあるが、消費量を気にする必要は少ない。味はほのかに甘味があるため、悪くない


 さて、残りの時間でまずサンダルを作ってみることにした。頭の中で完成図を思い描くことから始める。しなりの強い茎を曲げながら編むようにして、楕円形になるよう調整。その後、茎の隙間にツルを通してサンダルの紐を再現。


 意外といけそうだな。そう思って制作を開始すると、思いの外楽しくて、順調に作業は進んだ。この、編むという行為は今後色々な道具制作で有効になるだろうから、特に集中して行った。


 ふと横を見ると、でかヤモリが二匹並んですやすやと寝ていた。こいつらも、キュルルも、あの虫もそうだが、この島の生き物はあまりにも呑気だ。幸い俺を襲ってくるような獰猛な肉食獣は姿を見せない。

 もしかしたら、天敵が少ないのかもしれない。先ほどキュルルが召し上がった虫も、硬い甲殻のようなものを持っていたから、ヤモリたちじゃ相手にならないだろうし。


 さて、とりあえず一つ目のサンダルの原型が完成した。基本的に茂みと砂浜しか歩いていないため、足は少し切り傷がある程度。しかし、砂浜は水に濡れた部分以外はかなり暑いため、ここを移動する際にサンダルがあると楽だ。


「で、こいつらをどう料理するかだが……」


 でかヤモリは相変わらずぐっすり。焼く、のが鉄板だろうが、火を起こしてみるか。少し太めの枝の上に枝を立て、回転させながら擦り付ける。

 それを行うこと二時間。夕日が沈みかけていた。流石には簡単には起こせないか。


 相変わらず空いたままの腹を満たすため、青きのみを食べれるだけ食べて、でかヤモリたちにも口に含ませる。

 キュルルは平たい虫を食べられて満足したのか、青きのみには興味を示さない。


 ああ、まただ……。

 強烈な眠気に引きずり込まれるように、俺は目を閉じた。明日こそは腹を膨らますことを夢見て……。



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