第9話 悪役令嬢が断罪される時(2)
ラデク様が放った、本来なら嬉しいはずの言葉が頭を駆け巡るわ。
どう言えば正解か分からないわ。だめよ、今は仕事モードで切り抜けるの!恋する私は必要ないわ!
「わたくしの冤罪が立証されたのですか?」
「ええ、そうです。あなたに罪を着せたのはリリア男爵令嬢でしたね。彼女は魅了の術を使い王太子を誘惑し、意のままに操っていました」
「それは王太子妃になりたいから……ですか?」
「いいえ、隣国の陰謀です。リリア男爵令嬢は隣国のスパイでした。王太子を操つることで、行く行くは我が国を属国化する予定だったのです。それに薄々気が付いていた王とあなたのご両親は、あなたを我が領へ逃がし、隣国をごまかすために私はあなたと偽装結婚することになりました」
「ま、待ってください、リリア様が隣国のスパイであることは分かりました。ですがわたくしを逃がすとは?なぜそこでラデク様と結婚になるのですか?」
「隣国の狙いがあなたでもあったからです」
「…………え?」
「隣国の王太子はあなたを妻にと望んでいました。あなたが断罪されたあの日。実はあの会場に隣国の王太子がいたのです。王太子は断罪され、傷心なあなたを慰めることで心を得ようと考えていたのです。それを事前に察したご両親が私の元へアドリアナ嬢を送りました。だからあんなに結婚式を急いだのです」
「あ……」
確かに、断罪されたあの日、私は我が家の騎士に強制的に家に連れていかれ、着の身着のままでベドナジーク伯爵領までやってきた。朝昼問わず馬車で走って、ついたと同時に結婚式を挙げた。確かに神の御前で誓った。だけど口づけなはなかった。サインもしていない。
「この地は隣国から遠い。さらにわが伯爵領は武力もあり、逃げようと思えば港から他国へと逃げることができる。あなたのご両親の苦渋の決断に、私と両親は仮初の結婚を受け入れることにしました」
「そう……だったんですね」
ああ、だからラデク様もご両親も、私を嫁とも妻とも言ってくださらなかったのね。私だけが一方的に恋しただけ。私だけが妻を望んでいただけ。
「今は冤罪も証明され、リリア男爵令嬢も捕縛されました。隣国にはこのことを交渉材料として高額な謝罪金を求めています。さらに王太子様も正気戻られ、あなたとの結婚を望んでいるそうです。良かったですね」
「…………………………はい」
心が張り裂けそうだわ。泣いてはだめだと思っているのに、涙があふれてくるわ。唇が震える。ぎゅっと結んだ手が、止めようと思っているのに震えるわ。
大丈夫、まだ恋だもの。だからこの想いを止めることができるわ。王太子様との結婚は仕事。そう思えばこなせるわ。愛も恋もいらない。だって仕事だもの。王太子妃としての仕事をするの。子供は乳母に任せれば良いのよ。だって愛のない結婚だもの。子供を作るのだって仕事だもの。大丈夫、きっとできるわ。
「私との結婚については大丈夫ですよ。結婚式はサインがないので、無効です。家人にはお預かりしているだけの客人だと言ってます。親方は先走っていますが、まぁ分かってくれます」
「ラデク様は……」
「え?ああ、私は良いのです、お気になさらず。ロッキングチェアの売り上げの一部も、ちゃんとお支払いしますよ。他にも何かアイデアがあったらいつでも言ってください。あなたとの仕事は楽しかった」
ああ、ラデク様は私のことなどなんとも思っていないのね。やはりこの想いは一方通行。
やさしい風が髪を揺らし、温かい大地が私の涙を受け止めてくれる。
だけど景色は灰色だわ。私にはもう色は見えない。これから先、一生。
酷い断罪。これが悪役令嬢に相応しい断罪なのね。
溺愛宣言されました。 清水柚木 @yuzuki_shimizu
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