影武者の私から、本物の陛下へ

冬月 蝋梅

影武者の私から、本物の陛下へ


 わが陛下、一刻も早くお逃げください。


 今日、この時をもって私は、あなたの代わりとなって死にます。


 この任に選ばれたときから覚悟していたことです。

 この国の最高責任者であるあなたの身代わりという、最も危険な役割ということは、いつ死んでもおかしくないと考えていました。


 もともとこの国は衰えていました。

 長引く不作と、忌々しい上級貴族たちの横暴で国内は荒れ果てるばかり。

 民衆の怒りはいつだってあなたにむいて、何も起こさない神には縋るばかり。

 そして今回の反乱を起こしたのは、本当は陰で敵国と内通しているあなたの甥っ子。

 貴方が嘆くのも無理ありません。


 わたしは怖いです。いつこの玉座の間に反乱軍がなだれ込んでくるか。

 いや、それ以上に怖いのは、いままで信頼してきた騎士達が、どれだけ寝返っているかを知ることかもしれません。


 ですが、あなたのことを思うと、こんな泣き言を言っていられません。

 あなたはいつだって、この恐怖と戦ってきた。

 いつ殺させるかもわからない恐怖の中、あらゆるところと交渉をし、少しでも芽のある農業研究に金を投入し、改革を訴えてきた姿を私は見てきました。

 あなたが王子様たちとの時間を大事にし、その成長を喜んでいた時だけが安息だったことを、私だけが知っています。

 

 私は、こんな顔が似ているだけの男を盛り立て、人生に彩を添えてくれたことに感謝しているのです。

 

 だからこそ、今この時がわたしのいた意味なのです。

 あなたの代わりに捕まり、反乱軍に王の首だと認識されること。

 それこそが影武者たる私の役割なのです。


 だからこそ陛下、私の人生よ。


 急いで逃げてください。


 王という責務は、あとは私が持っていきますから……


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影武者の私から、本物の陛下へ 冬月 蝋梅 @tougetu

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