第34話 迎えに来たのは王子様(?)
「これ、どうやって外せばいいのかしら」
ヨナは蛍に目もくれず、ブレスレットに付けられた石をまじまじと見つめている。
「……妖精の石……」と呟いている蛍の背中があまりにも可哀想で思わず声をかけた。
「あ、あのさ。あの石は絵本に出てくる石じゃないし……持ってるだけで今日みたいに襲われるから……」
その瞬間、蛍がボロボロと大粒の涙を流し始めてギョッとする。そこらへんで拾った綺麗な石を取られただけでそこまで泣かなくても……とは思いながらも口にするのはやめた。目の前で泣いている女の子がこれ以上泣く事態も避けたい。ていうか、最近、俺の目の前で泣く女子多すぎだろ……。
「え、えっと……これ……」
とりあえずハンカチを差し出す。すると、蛍は一瞬驚いたようにビクリと肩を震わせ、恐る恐るハンカチを受け取った。怯える小動物を思わせる目でじっと俺を見つめている。
「欠片を渡してくれたらいいだけの話だし、そんなに怯えないでよ」
なにも考えず蛍の頭を撫で、蛍の動きがピタリと止まり、あ、やらかしたと気が付いた。後輩とはいえ、馴れ馴れしすぎる。慌てて手を離した。
「ご、ごめ——」
「……い……」
「え?」
うつむいていた蛍がバッと顔を上げる。その瞳にはいっぱいに涙が溜まっていた。
「こんな、こんなっ、こんな身体が光ってて、ナヨナヨしてる先輩が、私の王子様なんて認めないぃっ……‼」
俺のハンカチを握りしめながら叫んだ蛍の後ろから、慌てて屋上から降りて来たのだろう樒と美玲の姿が見える。そういえば、俺の身体まだ光ってたんだったとか、そんなことを思う前に、俺、いま物凄いこと言われなかったか? と頭の中が大混乱でもうなにがなんだかわからなかった。目の前で蛍が「うぅ……」と俺のハンカチに顔をうずめている。
「……とりあえず、無事でよかったよ」
駆け寄って来た樒が苦笑を浮かべ、俺にそう言った。この状況で果たして無事と言えるのか……。樒の後ろで美玲が物凄い表情を浮かべていた気がしたけれどきっと気のせいだろう。
「ねぇ、蝶羽。これ、どうやって外せばいいの?」
ヨナはこちらに一切興味を示すことなく、ブレスレットの石をどうやって取り外そうかと頭を悩ませているようだった。
◇
蛍がブレスレットにつけてしまった聖星石の欠片は樒に取り外してもらい、欠片は結局俺の腹の中(?)に収まって、次の日の放課後。部室に行くと、蛍がいた。
「ひゃあっ⁈」
俺が部屋に入って来た途端、樒の後ろに隠れてしまう。いったい俺がなにを下って言うんだ……。
「蛍ちゃん入部したんだって」
「え?」
あの経緯で? と口から飛び出しそうになったのをぐっとこらえる。少し離れた所でソファーに腰掛けている美玲が、警戒剥き出しの猫のようにピリピリとした空気を醸し出しながら、蛍のことをじっと見つめていた。その横に座るヨナは涼しい顔をしている。
「ほら、蛍ちゃん。怖くない、怖くな~い」
樒に促され、蛍がおずおずと俺の前に出て来た。怯えた様子でうつむいてもじもじしている姿は小動物そのものだ。ヨナが怯えられるならまだしも、俺が怯えられる理由はなんだ?
「えっと……俺、なんかした?」
少しかがみこんで蛍と目線を合わせたその時、蛍の顔が急に真っ赤になった。
「え」
蛍が素早く樒の後ろに隠れた。樒が「あら~……」と苦笑する。
「……嫌われてる……?」
「まあ、これから仲良くしなね。唯一の後輩なんだし」
「あ、あの……」
樒の後ろから小さい声が聞こえた。樒の後ろに隠れた蛍は絶対に俺に顔を見せようとしない。
「や……夜太郎先輩って呼んでも……いいですか……?」
「え? ああ、いいよ。好きに呼んでくれ」
そう答えると、蛍が少しだけ顔を覗かせて「あ、ありがとうございます……!」とペコペコロ頭を下げた。少し顔が赤い。
夏休み間近。絶対にないと思っていた後輩の新入部員。部活としては嬉しいことなのだが、なぜだろう。この先、色々大変そうだと頭の中でもう一人の俺が囁いているのは。
星空を呑む 柚里カオリ @yuzusatokaori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。星空を呑むの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます