獄卒

輝空歩

獄卒

まだまだ神が身近だった時代、一人の人間が、地獄の閻魔に申し出をした。


男は自分の妻が地獄に落ちたことに対して、抗議していたのだ。


閻魔は男に強圧的な態度でその妻の悪事を語ったが、男には通じなかった。


男は朴念仁ぼくねんじんな閻魔に対して講義を続けた。


数週間が立ったあたり、閻魔が重い腰を上げた。


「そんなにあの女を天国に行かせたいならよかろう。お前が獄卒ごくそつとなりあの女に触れれば、お前の妻は天国に行ける。

しかし、その場合お前は一生獄卒としてここで働かなければならない。お前が妻を救わないと思えば、お前は現世へ帰れる。」


「それでも良い。勿論彼女を救う。」

男は言った。


「ただし、」閻魔は続けた。「地獄にいる間、お前の記憶は消させてもらう。事の経緯と妻に関してのことは、私の部下が教える。」


「わかった」

「よし。」閻魔はが杖を一振りすると、真っ黒な地面が、男を覆い、男は深い地獄へと落ちた。


地獄。

男の姿は恐ろしい獄卒の見た目へと変化していた。記憶も消えていた。

男は閻魔の部下から説明を受けた。


彼の判断はこうだった。

 

{妻であろうが、そんな極悪人を救ってたまるか。妻だからって贔屓ひいきするのは間違っているだろう}


数時間前の主張はどこに行ったのか、男は針山で苦しむ妻に軽蔑の眼差しを向けた。

次は目を向けるにも値しないと思ったのか、男は妻を二度と見ずに、現世へのはしごを登っていった。


その様子を、亡者に化けてた閻魔が見ていた。

閻魔はどこかに行くのか、次第に上昇していった。

「失望した」

閻魔は暗黒色の涙を。一粒流した。

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