第41話 生まれ変わるための死に方

 人類は技術を重ねても,争いを削ぐことは叶わなかった.核兵器や生物兵器を皮切りに,活断層や火山活動を誘発させる残虐極まりないものを創っていき,誇示されていた暴力が次第に地上へこぼれていく.地表を灰で包んだ大戦を最後に,残されたほぼ全ての人類は,肉体を捨てて電脳世界へと消えていったのだった.そんな過去を俺らは変えるつもりはない.

 我々は歴史から学ぶことで争いをなくそうと考えているが,それは間違いである.歴史があるからこそ,我々が足跡を残してきたからこそ文明が生まれ,人を殺す方法も人を騙す方法も支配する方法もすべてその足跡から生まれている.そしてその積み重ねがあるからこそ,我々は経験としてそれを蓄え,この先の未来を推測することが可能となるのだ.この推測から望む未来と望まない未来の区分けが発生し,望む未来に人々が手を伸ばす以上,必ずどこかで伸ばした手が重なり衝突が起こる.世界から争いを無くそうとするなら,思想も足跡も全て人間から取り除かなければならない.これはあまりにも浅慮だろう.我々が人間である以上,我々が記憶を持ち過去を経験として己の中に蓄えていく以上,世界から争いを無くすことはできない.

 その経験から思想は生まれる.思想がある限り,各々の中に正しいもの,正しくないもの,こうであるべき,こうなるはずといった法則が生まれる.法則には必ず思想が介在する.この世界の法則には何者かの思想が介在していると言えるのだ.これは定義した我々自身のものかもしれないし,そうでないかもしれない.法則とは入力に対する出力を型にはめることに他ならない.この型には手段,そして思想が介在する.何の法則もなくすべてが混沌としていて思想の介在する余地のない世界.それこそが本当に整った世界の形なのかもしれない.

 思想が我々を定義し,我々が思想を生む.人々の意思は法則として世界と自分たちを縛り,争いを生み,悪魔を生み,魂の循環の果てに望む未来はあるのだろうか?

 次で最後の章となる.俺と伊吹はそれを見届けるつもりだ.自らの意志を砕くことで,意志の合成シンセサイズである俺を悪魔と紐づけた「ほうそく」は消えた.天使なのか神なのか,はたまた管理人なのか.俺と伊吹を定義する言葉は無いが,定義する必要もないだろう.俺は伊吹にとって,伊吹は俺にとって,大切.それで十分だ.生きる意味はこれで足りている.

 魂に関するこの胡散臭い推論を書いている悪趣味なやつが,どんな結論で締めるのやら……

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悪魔的シンセサイズ 漆徇炫 @ulushi_shungen

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