第40話 悪魔 シンセサイズ

 数万年という因果に決着がついた.言い方は格好いいが,実のところ俺と伊吹でお互いの尻拭いをしていたに過ぎない.俺らの計画は新たな人類を巻き込みながら,俺らに都合の良い終わり方をした.ノエが集めていた伊吹の殻はすべて俺が回収した.これによりすべての天使の殻が揃う.固い意志を持つ俺か,オリジナルの伊吹にしか扱えない代物だ.ソニアが吸収していた魂はノエと共に生と死の循環へと還っていった.神が消えれば結びつきも消える.

 なあ,ノエ? あんたは初めから俺に天使の力を託すつもりだったんだろ? 変えられないと悟っていたんだろ? 最終的に天使の力を持つのが俺である以上,いくら改変を試みようがに元に戻されること.どう足掻いてもとして終わってしまうこと.この先の未来がどうなるかも.


 [[歩,私のせいで……ごめん.ごめんなさい……]]


 いいんだよ,そんなこと.死ねはしなかったけどな,二人で救えるだけ少しづつ救っていこうぜ.俺らが神になるには早いからさ,数万・数億と迷惑かけてきた分以上に人を救ってから,この文明を幸せに終わらせてから向こうに行こう.


 [[歩はこれ以上社会貢献に人生かけなくても……私だけで……無理か……]]


 そうだな.正真正銘,俺ら一つになっちゃったんだぜ.伊吹の殻に包まれてる感じがよく伝わるな.


 [[気持ち悪っ]]


 散々二人で笑った後,俺は伊吹を抱きしめる.あの日の俺には出来なかったことだ.



「セリア! セリア!!」

「あれ……? ここは……?」

「良かった.良かった」


 ソニアは無事だった.運命に抗うだのなんだの言ってた誰かさんが,一番運命を押し付けていたのかもしれないが,こんな都合の良い幸運もたまには許されるのかもしれない.いや,誰かに許されるでもなく手に入れた幸せは噛みしめるべきだ.神だけに.


「──お姉さん,誰?」

「セリア,お姉ちゃんだ.ソニア御姉様だ」

「ソニア……御姉様……?」


 セリアは記憶を失っていた.少しずつ思い出していけばいい,きっと思い出すさ.


「歩,我々はここで暮らすことにするよ.もう戻ったところで居場所はないだろう」

「こんなところで生きていけるのか?」

「もう少し東へ戻ったところに村があってな,そこでなくとも暮らせる場所を探してみるさ.セリアが生きているなら,私は妹を守るまでだ.だから安心しろ,もう隣から目を離さない」

「あっはは,これじゃますますシスコンが極まるな」

「うるさい.貴様こそ何年も告白できてない弱虫のクセに」

「ああ? ずっと両想いなんだから関係ねえよ」

「ずっと記憶失っていたことを棚に上げて何を言うか.彼女を泣かせたこと私は知っているからな」

「なっ,いつの間に覗いて……」


 電脳人類と管理人二人,運命の交わる黒い世界に僅かな光を求めて,灰色の奇跡を繰り返す.何億年という時の中で悪魔となった管理人は,天使となったもう一人の管理人と一つになり,運命の果て,奇跡の終着点を見据える.荒れた大地に立つ彼は向かうのであった.かつての居場所へ,西の果てへ,的殺の方へ.




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