第39話 次元的ラストピース
「[
「もう当たんねえよ」
神の振るう子供じみた剣は,音もなく大地を削り取りながら俺に襲い掛かる.ここまで体が軽く感じたことはない.ここまで頭が澄み切っていると感じたことはない.
「[敵に回すよやはり厄介ですね…….ですがですが,全く予想できない訳ではない……!!]」
「力を手に入れようが人間は人間だ.材料を揃えたところで,当てになると思うな」
「[大雑把でいいんですよ……繋げ,木星]」
神の言葉とともに前へ出した両手に,小さな宇宙を見た.強大な引力が俺を吸い寄せる.本当に子供じみた技だが,子供じみているほど意地の悪く,理屈の通じないことはない.
「[理屈は通じていますとも! 点を並べ線へ,線を並べ面を成すように,本来一つであるものを複数集めることで次元を昇ることができます.多くの魂を一つの体に集めた僕は,この次元の超越者となったのです!!!]」
「この星を消し飛ばす気か?」
「[楽になる人が多いなら,それもいいかもしれませんね!!]」
完全に思考が狂っている.
「[終わりだ]」
「壊れてきてるぜ,あんた」
ノエの後ろに回る,大きな翼は視界の妨げに──
「[ちょこまかと虫のようなすばしっこさですね.繋げ,太陽]」
前へ出した両手から,今度は炎が噴き出す.一瞬にして地面が融け,大きなクレーターを作り出した.躱すだけ影響がおおきくなりそうだ.そろそろ教えてやるか.天使の方へ歩く.
「[ハハハハ,太陽に自ら突っ込むとは愚かな悪魔さんだ]」
「太陽の熱ね,さぞ熱いんだろうな」
辺りを包んでいた炎が消えた.気付いた時には,すでに目の間で剣を振り上げた.やはり速い.
「[この程度で融けるなんて思っていませんよ.目くらまし用です.あなた視覚は人並ですからね.いい加減,死ねよ]」
振り降ろされた剣が首元に直撃した.
「[ハハハハハハ!!!! てめえにくれてやる救いだ!!]」
「」
「[?]」
「」
「[なぜだ?]」
「」
「[なぜ,切れない,消えない……?]」
「」
「[なんで切れねえんだよ!! クソ野郎が!!!]」
「神の剣とか言ったな」
「[あ゛?]」
「人の剣で人は切れるが,神の剣で人は切れるか?」
「[切れるに決まってるだろ!!]」
「では神は切れるか?」
「[切れね……まさか,てめえ]」
「そうだろう,これも所詮人の剣に過ぎないんだよ,ノエ」
「[いつその力を……?]」
「あんたと同じさ.いつかこういう奴が現れる事を予測できなかった訳じゃない.今まで俺が手にかけてきた,原始的で純粋で正義感が強くて必死に生きていた人たちの力だ」
取り外した天使の殻を,そのままにしておくはずない.何者かが接触しに来ていることが分かっているなら,底なしの魂の中に隠すだけだ.出会った時点で決着ならついている.倒す気ならセリアを運ぶ前にとどめを刺している.気付いていないのだろう.初めて地から足を離した人間は,離れゆく地面を見下ろすばかりで,さらに上を見ようとしない.未来予知や天使の力を手にしたことで,悪魔が上から見ていることに気付いていないのだ.──なんて,全部俺の中の伊吹がせっせと用意してくれただけだ.いつか神と名乗るやつに辿り着いた時のために.そう,この時のために.
「[そんなことを,いつの間に……]」
「どれだけ過去が未来が覗けようとも,俺の歩みを全部見守ってくれた奴は一人しかいないんだよ.あんたにとっては都合よく扱き使える奴なんだろうがな,俺の相方はあんたほど考え無しじゃない」
「[ふざけるなよ,伊吹てめえ,余計なことをすんじゃねえよ!! せっかく救ってやるって言ってんのによ!!!]」
「馬鹿が神の力を使ったところで,悪魔には勝てない.ほら,決着ついたぞ.こんなに早いのは初めてだ.もう手はないのか?」
「[馬鹿だと?? 神に向かって……良い気になるなよ……!! 人間に戻して惨めさを思い出させてやるよ!!
「何をしても無駄だ.分かっているだろ? ヒビに隠していた殻を外に出したんだ.今更あんたに縛れるもんじゃない」
「[馬鹿な馬鹿な,リムド──]」
「
巨大な翼は葉のように散り,木漏れ日のように揺れて消えていった.
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