第38話 千金的バブル
「ソニアたちに毒を持ったのもあんたという訳か」
「[さすがさすが,お気づきになりましたか.あのテントの中には特殊なガスを充満させておりまして,ある薬物と反応するのですよ]」
「豆の発芽を止める薬……」
「[ご名答! この薬は魂に作用するのです! 植物の生命エネルギーを抑制するのですよ.そして茶葉に似た臭いのガス……あれは豆の薬に呼応して生命エネルギーを枯渇させ,肉体に傷ひとつなく命を奪うことができます]」
命を奪う.なんて軽く言えたものだ.まるで卵を割るように.
「なるほどね.よくもまあこんな計画を立てたもんだ」
「[それはご存じの通り,未来が見えるからですよ.初めて天使の欠片を見つけた時の喜びときたら……ソニアさんやセリアさんのように,産まれたときから魂の一部に一定量以上の欠片を有している方もいますが,僕はそうではありませんでした.ですから,集めたのです]」
「そんな非道な行いをして,ただで済まされるとは思えない……まさか……」
「[考えている通りのことです.権力者というものは最終的に不死さえ手に入れようとするもののようで,僕の研究により僅かに若返ることができると知るや否や,すべての残虐行為を黙認していただくことができました.さらにさらに,集め続けることで未来予知ができ,様々な場面で有利に進められるというおまけつきですから]」
自分たちの若返りのために他人の命が使われていることを,彼らは知っているのだろうか? 知っているのならば,彼らは人の血肉を喰らうこともできるのだろうか? 泡のように儚いからこそ重いのだ.この体で奪ってきた命の重みをそっと拳に込める.
「まるで過去改変だ.伊吹の殻を集めて,その天使の力を遠征隊の兵器に転用したということか」
「[前にも言いましたよ.天使の力を使って未来予知や過去の伊吹さんへの接続はできても,魂を集める力がなければ真の意味での改変はできません.所詮は天使の殻を集めるという運命に流されている錬金術師に過ぎないわけです.しかし!! ついにこの体を手に入れることができた!!]」
「体を手に入れるために,わざわざこんな遠回しなことを?」
「[セリアさんはソニアさんに常に監視されていて手が出せない,そしてソニアさんは僕ですら寒気のする方法で常人離れした肉体を手に入れたんですよ.何が平和主義者だ,何が隊の全員を守るだ,口ばかりで行動に示せない人間ほど信用できませんね!!]」
「そうかい,ソニアが吸収した幾百という魂の中から這い出てくるくらいには,強い覚悟があるみたいだな.だが俺に言わせれば,あんたは知った気になっているだけの,力の使い方を何も分かっていない子供だ」
「[悪魔さん悪魔さん,ずいぶん酷い言い方をしてくれますね.今すぐに貴方様の物語を終わらせてあげましょう]」
長い話を終え,青筋を立てた心の狭い天使は再び剣を構えた.強大な力を持ったその男は,目の前にいる存在を見誤っている.
「あんたにとっては,低次元な人の過去なんて本を破るように消せるし勝手に書き換えることもできるだろうさ.だがな──俺の本が破れる厚さをしていると思うなよ」
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