矢野から知る

あたしにはおーちゃんという後輩がいました。びっくりするくらい気が合って、授業以外の部活や委員会の時間はいつも隣にいました。お昼ご飯の時はおーちゃんがおかずをくれたりします。

あたしはおーちゃんが大好きです。後輩として大好きですが、それ以上に恋愛感情が大きいです。ずっとずっと好きでした。でも到底本人にそのことを伝えることはできません。


だっておーちゃんにはもう恋人がいるんですから。


それを知ったのはあたしが部活を引退する少し前でした。放課後におーちゃんのクラスの教室で、おーちゃんの隣の席の子が告白してきたそうです。まあ、おーちゃんは男女どちらからもモテるので。その子はいつだかにおーちゃんに聞いた、好きなタイプとそっくりでした。付き合ったことを知らないあたしはおーちゃんから「大事な話がある」って言われた時はすごく期待しました。でもやっぱりそんなことは無いですね。「おめでとう」って言うしか無かった。悔しかった。悲しかった。相手が男の子なら諦められたのに、同じ女で、きっと恋愛対象は男なんだろうって考えてたあたしがあまりにもアホらしかった。


あたしが正直にレズビアンだって話してたら変わってたんですかね。今でも後悔

してますし、おーちゃんと会うのが怖くてほとんど会えてません。「彼女さんとどう?」なんて簡単な話くらいをするのが精一杯です。おーちゃんはきっとあたしがおーちゃん達のことを同性カップルだからあまり関わりたく無いんだって思ってるんです。申し訳ないことをしたと思っています。でも目をあわせて話せば、想いが全部出てしまいそうなんです。そうしたらもうおーちゃんの先輩ですらいられないかもしれない。関係を壊すよりは良いと思ってしまうのは弱いですかね。


そう言えば一度、おーちゃんがあたしのことを大好きだって言ってくれたことがあったんです。あの時は先輩として?恋愛対象として?なんて頭の中で精一杯考えました。どちらとも取れない様子だったので「ありがとう」とだけ言っておきました。でも、その時のおーちゃんの顔がとても寂しそうだったんです。もしかしてあたしと同じ気持ちだったのかな?って一瞬思いました。でも言える雰囲気じゃなくてお互い黙り込んで帰ったんです。


あぁ、あの頃に戻りたいなぁ…もう一週間近く会ってないし、ろくに話してない。部活も委員会も無いから、もう関わる機会がないんです。

正直、この辺りで諦める方がいいかもしれないって思ってるんです。もうすぐ受験だし、学校へ行く機会も少なくなる。恋愛なんてしてる暇もなくなっちゃうし…。だけど、もしもまたおーちゃんと会う機会があって、その時におーちゃんに恋人がいなかったら、付き合ってって言おうかな…。それなら、良いですよね。うん、そうしよう。…はぁ、なんかスッキリしました!!


って、あれ?おーちゃんからLINEだ。


“秋さん、今から会えますか?”


え!?い、今!?え、こんな目腫れてるに…うわっ鼻真っ赤!!

こ、この顔で行ったら引かれますかね…?

そうですよね!!今更こんな醜態晒したっておーちゃんとの仲だし関係ないですよね!!

へ!?告白は…い、今は無理!!!


話聞いてくれてありがとうございました!!!さよなら!!


そう言って走って行った。

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