完成――フェス当日

盾羽さんの同人誌作品完成させた。

途中からレイも加わったことで私と凪沙の同人誌作りは更にはかどり、ちゃくちゃくと作業が進みながら完成させた。


「こ、これが、私たち・・・の同人誌」

「ついに完成したね!」

「ええ。」


 修正作業を終えて本に仕上げた同人誌を前にして、私たちは達成感にあふれていた。


 思い返せば、この同人誌を完成させるまでが険しくて遠いと思ってた頃がなつかしい。

 この同人誌は面白い。楽しくてスラスラ読める。内容や展開は分かっているのに、何度読んでも面白い。


「ついに私も……自分の作品を、完成させたん、だ」


 盾羽さんは読んでいる同人誌を前に泣きくずれてしまった。けど盾羽さんの顔は嬉しく笑っていた。

 嬉し泣きだ。盾羽さんは初めて自分でも誇れる作品を作れて嬉しいんだ。





 オラフェスはもの凄い勢いでにぎわいで満ちあふれていた。

 オタクライフを満喫しながらオラフェスを楽しむ人もいれば、コスプレをしてオラフェスを楽しむ人もいて、中には一般のままオラフェスを楽しむ人たちであふれかえっていた。



 大人気漫画なだけあって、結城先生が描いた同人誌はすぐに完売となった。

 一ノ瀬先輩は同人誌界隈の中ではそれなりに有名みたいで、結城先生に及ばなくても、一ノ瀬先輩の同人誌もすぐに完売した。

 結城先生と共同してからは更に有名となったらしくて、例え結城先生の力がなくても、オラフェスなどで販売される同人誌界隈では結城先生に引けを取らないらしい。


「思った以上に沢山売れたね、凪沙!」

「う、うん! 思った以上に売れて私も嬉しい!」


 私たちが作り上げた同人誌は全てで百冊。今日は百冊の内、90冊売れた。

 私たちを含めたサークル参加者は5万人。多数のライバルたちを差し置いて、私たちの同人誌はほぼ売れつくした。


 売れる為に同人誌の表紙を見やすく設置して、同人誌を買いに来たお客さんたちに見やすくした。同人誌を売る過程で、表紙を見やすく設置するのは基本中の基本だ。自分が買いたい同人誌がハッキリしてはいても、売っている同人誌が“どんなもの作品か″が分からなければ買おうとすら思わない。

 表紙を見せた後は興味を持ったお客さんが手に取って試しに少し読み始め、気に入ってくれたら迷わずに購入してくれる。同人誌界隈の常識だ。


『本時間を持って、本日のオラフェスは終了です。会場まで足を運んだお客様並びに、サークル参加した皆様全員へ通達致します。お疲れ様でした』


 オラフェスの終了の合図であるアナウンスが報じられた。

 会場に参加している参加者たちはマナーに従って会場を次々と後にしていってる。


 一方、会場で各々自慢の作品を販売していたサークル参加者たちもみんな、自分たちの後じまいをしていく。


「終わっちゃったね、私たちのサークル」

「ええ。終わってしまいましたね、私たちの楽しいひとときがもう終わりだと思うと何だかしょんぼりする」


 これで終わりなんだなあ、と思うとやり遂げた達成感を実感しつつも、“寂しい″という気持ち感情が相反し合って複雑な気分で駆られてしまう。


「し、師匠――こ、このお金はどういう……」

「何って? 一冊買いたいんだ。このカネはその為に出してる」

「で、でも。それなら私が師匠に直接渡せば済む話じゃ」

「まあ“普通″はそう思うし、急に凪沙の同人誌作品を買いたいなんて言われたら驚いてしまうのは当然の事だが。

 私はそれでも凪沙の同人誌作品を買った上で読みたいんだ。

 私が凪沙の師匠である以前に、凪沙の一人の客としてな」


 結城先生が売れ余った凪沙さんの同人誌を買い取ろうとして行き違いが起き、「もう! 凪沙ちゃんに伝える姿勢も言葉思いも、肝心なところが一切ハッキリしていない!」っと横から一ノ瀬先輩が水を差して調和した。


「さ、桜あ...」

「御剣さんには悪いし、私の流儀に反してしまうけど、

 これ以上はらちが明かないし、この際私の口から代弁させてもらうよ。

 凪沙ちゃん。御剣さんはずっと、凪沙ちゃんが築き上げた作品が完成するのをずっと願っていたし、凪沙ちゃんを助けたいと思っていたのよ!」


「そ、それは本当なんですか、師匠!」

「……全て桜が言ったとおりだ。凪沙」


 御剣ほむらは全て盾羽凪沙に打ち明け白状した。

 今まで盾羽が抱えていた苦悩を知って何もできなかったこと。盾羽が抱えてきた苦悩を解決するために行動してきたこと。ハルカに盾羽のアシスタントをするよう頼んだことを。


「し、師匠……」

「すまない凪サ――」

「ありがとうございます師匠!」

「「!!?」」


 明日奈が凪沙に謝罪の言葉をかけようとした瞬間、凪沙が大声でそう言って頭を下げた。

 凪沙の咄嗟の行動にハルカと明日奈は驚いて、桜はわおー、と少し驚きながらもどこか楽し気に笑みを浮かべていた。レイは相変わらず無表情で冷静を保っていた。


「師匠が私の事を気にかけているのは勿論知っていました。 だから師匠は遥さんを私の元へ赴かせてたんですよね。私の為に、私の同人誌を完成させる為に!」


 夏凛は何だ知っていたのかと、少し驚いた表情でそう述べた。


「師匠は隠し事をするのが下手だからすぐに分かります。 だって師匠、口には出さなくても顔に出ちゃいますから」


 思ってもいなかった凪沙の言葉指摘に夏凛は頬を赤らめた。

 その様子を見逃さない桜がもうスピードで夏凛の顔をスケッチを始めた。

 「やめろー! 桜あー!」と、夏凛は桜を追いかけ抵抗するも、「やだなー、ちょっとした参考程度に描いているだけですよー」と、桜は笑みを浮かべたまま、走って逃げながらスケッチを続けていた。スケッチの速度は落ちることない。


「そこの二人―! 会場での騒ぎを起こすのは止めなさい!」


 夏凛と桜の追いかけはすぐさま騒ぎとなり、後じまいをしていくサークル参加者並びに、会場を出ようとしている客たちを巻き込んで、大騒ぎと化してしまった。

 

「遥の指示であればいつでも止めに掛かります。どうしますか、遥?」

「止めた方がいいと思うけど、警備員さん達がやって来たしここはいいよ、レイ」

「本当にいいの?」

「こんだけ大勢の警備員さん達がやってきた以上、すぐに鎮圧されると思う。だから――」

「うわあああああ!!」


 夏凛と桜の針圧に取り掛かかった警備員たちが皆、一斉に吹き飛ばされていった。夏凛と桜の猛威は強力過ぎるあまり、取り押さえるどころか、近づくことさえままならなかった。


「前言撤回! レイ、すぐに取り掛かって!」

「分かった」

「わ、私も協力します。元はと言えばこの騒ぎを起こしてしまった原因は私にも責任があるから」



 その後、レイたちによって正気に戻った夏凛と桜は警備員やオメガ―行政機関たちによって厳重に注意された。

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クラフリ オーラムフェスティバル―コミックスポットライト 暁辰巳 @santuki

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