フェスへ向けて

「わ、私の同人誌作りを手伝ってくれるんですか?」

「はい、そうです」


 結城先生にどう手伝えばいいか相談したところ。私が盾羽さん、レイが一ノ瀬先輩を手伝うことになった。


「し、師匠がそんなことを……」

「私もできるだけ――いや、私は全力で盾羽さんをサポートします。だから盾羽さんも、思いっきり・・・・・作業に取り組んでください!」

「き、気持ちはありがたいんですけど、 

 私、駄作しか作れない描けないダメ作家なんで、私なんかを手伝わず、一ノ瀬先輩を手伝った方がいいと思います」


 盾羽さんはうつむきながらボソッとそう言った。

 結城先生から言われたことを思い出す。


「盾羽さんを助けてほしい?」

「ああ。 凪沙は日々私と桜の元でアシスタントとして私と桜を手伝いながら日々自分の腕を上げていっているんだが、“上″を目指すあまり、凪沙は自分と私や桜を比べ自分を見失いつつある。

 悔しいが、私や桜じゃ凪沙を救うことができねえ。

 だから、遥に頼みたい。 凪沙を救うことが出来るのは遥しかいないから」

「私でよければ喜んで。 それで、私はどうすればいいですか?」

「凪沙を救う方法、それは――」




「これでいい?」

「う、うん! 同人誌作品に必要な原稿にちゃんと仕上がってるから、これで問題ない」



 遥と凪沙は意気投合して仲良くなった。

 一緒に原稿を作成していき、仕上げた原稿をデジタルでホワイト、トーン、ベタを施して原稿を完成させていった。一緒に同人誌作りをしていく内にお互いに相方のことを少しずつ理解していき、お互いに信頼する中にまで深くなっていったのだ。



「どうやら、私らが出る幕ではないみたいだな」

「これがあなたの狙いだったんですね、結城先生」


 部屋の出入り口であるドア付近で、とレイは密かに二人の行く末を見守っていた。

 今日の作業を終えたレイがハルカの助けに向かったところ、部屋のドア付近でハルカが密かに見守っているところで鉢合わせして今の状況に至る。


「ああ、これこそ私が遥を盾羽の元へ向かわせた本当の狙いだ。 盾羽は『漫画部』で私と桜の元で自分を磨き上げていったが、凪沙は自分の腕を磨き上げていく内に、自身じぶんの大切なものを知らずの内に忘れてしまっていったからな。

 私は遥を凪沙の元へ向かわせ共同作業をするよう促した。凪沙に作品を作る楽しさや難しさ、作品を完成させたときの達成感や喜びを分かち合える仲間と一緒に味わって、失ってきたものを思い出させる為に」

「思い出させる為? 取り戻させるの間違いなんじゃないですか」


 レイの細かい指摘ツッコミに、夏凛はそうでもあると両腕を組んで言い返した後、レイの方へ姿勢を向けた。


「人間ってのは、一つのことに凝り固まってしまうと、何もかも見えなくってしまうもんだ。だからこそ、こういう時は気分転換するに限るし、誰かに助けてもらった方が手っ取り早い。

 今回は遥を仕向ける形になってしまったが、

 凪沙の、あの嬉しく楽しそうな笑顔を久しぶりに見れた。それで十分だ」

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