コマ
「ま、漫画の描き方を教えてほしい?」
「はい。どうかお願いします」
手作りのお菓子。淹れたての紅茶を差し出し。レイは頭を下げてお願いした。
「ど、どうして私なんですか? 私より一ノ瀬先輩の方が分かりやすく教えてくれると思うのですが」
「桜さんは自身の同人誌作りで忙しい為、桜さんに漫画の描き方を教えていただきたいのは申し訳ないがないのもありますが、
桜さんから聞いたところ、盾羽さんが一番描くのが上手いと聞いたので、盾羽さんにどうしても教えていただきたいのです」
(一ノ瀬先輩、分かった上で私に面倒ごとを押し付けたでしょ)
「わ、私でよければ漫画の基礎知識をお教えします」
「ありがとうございます。盾羽さん」
「っとような
(あの引っ込み思案な凪沙が、勇気を出してレイに漫画の描き方を教えたのか)
「それじゃあその腕を見込んで、思う存分にアシスタントとして頑張ってくれよな!」
「最初からそのつもりです」
こうして二人の作業が始まった。
作業を開始してから少しして、ほむらとレイは意気投合して更に作業のダンドリが上がっていき次々と原稿が完成していく。
「……ん?」
いつの間にか私は眠っていたらしい。
私は黒いソファーの上で横になっていて、ソファーの背もたれが後ろに倒されて、ベッドと化していた。
「――ええ!?」
ソファーのすぐ隣で、寝袋に入って枕を頭を乗せたまま眠っていた結城先生の姿があった。
「目が覚めたようねハルカ。どうぞ、眠気覚ましのコーヒー」
「ありがとうレイ」
レイが淹れてくれたコーヒーを飲み干した後、レイから事の経緯を聞いた。
「原稿を描き終えたから結城先生は眠っていると」
「結城先生は原稿を仕上げてから眠りについた。
描き上げた原稿の見直しと修正する必要がある為、結城先生は仮眠を選択して
「ソファーが一台しかないから仕方ないけど。見た所、ベッドどころか布団すら保管してないよね、結城先生。
普段はどこで寝ているのかな」
「普段はそのソファーで眠っているのだそうです。また、一ノ瀬先輩は結城先生と同様に、いつもソファーで眠っているみたいです」
「一応、ソファーの座面には布団が上からかけられていたから十分に熟睡できると思うけど。結城先生は普段、こんな凄い生活をしているんだね」
「結城先生からすれば日常茶飯事なんでしょ。 私たちからすればいびつで、もの凄い生活ですが、
日々学校に通いながら漫画を描き、自分自身の作品と日々戦っている。私はそう感じました」
「さすがは大人気漫画家の結城先生だね」
「……んあ?」
レイとそう話し込んでいると、結城先生が目を覚ました。
寝起きな結城先生は片腕で片目をゆすりながら私とレイがいる方向へ顔を向けた。
「どれくらい寝てた?」
「ええっと…」
「大体一時間くらいです。結城先生」
「結構寝てたんだな……。 さてと、仕上げにかかるか」
結城先生は描き上げた原稿を読み始めた。
レイが緑茶を差し入れ、結城先生は緑茶を飲みながら静かに原稿を読んでいった。
最後まで原稿を読み終えた結城先生は引き出しからメモ帳を取り出して、メモ帳の一枚一枚にぎっしりと書きうめていていく。
修正すべきコマの作画。誤字脱字。思いついたアイデア。見えたビジョン。それら全てを粗方書き出していった。
「こんなところか。 遥にレイ、二人のおかげで予定より早く原稿を描き終えたありがとう」
「い、いえ。 結城先生の力になれて嬉しかったし、ベタしかできなかったけど、漫画を描けて楽しかったです!」
「私も、漫画を描くのはそれなりに楽しかった」
「そうか。それならなりよりだ。 ここからは私一人でやる。ここからはこの作品を描いた私自身との戦いだからな!」
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