神戸の六甲山

川詩夕

六甲山

 あんた、この辺で見かけへん顔やな。

 どこから来たん? へぇ、知らんわ、聞いた事ない。

 うち? うちは地元がここで昔からこの辺に住んでるんや。

 六甲山を単車で走る為にわざわざ遠くから来たん?

 そら走り屋のさがやからしゃあないな。

 なぁ、一服する間におもろい話聞かん?

 六甲山って名称のほんまの由来って知っとる?

 知らん? ほんならうちが教えたるわ。

 いにしえぞくってな、その中でも特に極悪非道な六人の首を切断して、かぶとごと山に埋めたからって言われとるやん?

 でもな、ほんまはそれ違うねん。

 しかもな、首を切断された六人は賊やなくて善良な農民一家やったんやで。

 その時代の土地の権力者が村祭りの日にな、偶然見かけた農民一家のえらい若い娘に一目惚れしてしもてな、その若い娘をぜにおうとしたんやて。

 農民一家の若い娘はそれはそれは聡明で大層美人たいそうびじんやったらしいわ。

 農民一家の主は権力者の申し出を恐れながら断ったんや。

 ほんでな、農民一家の若い娘以外の六人がな、権力者とその取り巻きに首を切断されてしもてな、要は逆恨みの惨殺ざんさつや。

 若い娘は殺された家族六人が目の前で横たわる中でな、権力者に陵辱りょうじょくの限りを尽くされたんや。

 その後、権力者は農民一家の死体を闇に葬る為、農民一家の家に火を着けたんや。

 燃えさかる炎の中、若い娘は失意のどん底でなんとか家族六人の首だけを家の外へ運び出した。

 若い娘は大層美人やったのに顔と背中に一生痕が残ってまうほど酷い火傷を負うてもてな、家族は惨殺されるわ顔は焼けただれるわで生き地獄やでほんま。

 若い娘は一ヶ月後に姿を消してしもた。

 人生悲観して身投げした、村の連中はそう思てたらしいわ、そら美人な顔と背中一面に酷い火傷を負うてしもたからな。

 ほんであっちゅう間に権力者と血が繋がってるもんが次々と怪死していきよるんや。

 毎晩毎晩、切断された六つの生首が権力者の屋敷の周りをびゅうびゅう飛び回ってな、目と口を大きくかっひろげて血反吐を吐き散らしながらえげつない言葉を絶叫し続けてたんやて。

 その光景を見た者は次々と寝込んでいってな、挙げ句の果てに原因不明の怪死や。

 権力者の取り巻き達が農民一家の祟りや言い出して、他所よその土地から高名こうめいな坊さん呼んで六ヶ月間毎日欠かさず経を上げさしたんや。

 農民一家を丁重ていちょう供養くようし続けてたら次第に祟りは静まったらしい。

 ほんで最後に農民一家の大きい墓を建てたんやて。

 墓石に刻まれた名前は六甲家の墓や。

 六甲家の墓がこの山にあるから六甲山て名称になったんやで。


 ほんでな、うちがな、その農民一家を惨殺した祖先の末裔まつえいや。


 でもな、祟りは未だに続いとったんや、末代までの祟りっちゅうんはこの事やでほんま。


 ほら……このヘルメットの中をよう見てみい……うちの顔面と首があらへんやろ……?


 六甲山を自慢の単車でかっ飛ばしてたら事故ってしもてな、首どっか飛んでって見失ってしもたんや。


 もうとっくに死んどるはずやのに何年も死にきれへん。


 お陰様でうちは今、首無しライダーって呼ばれとるらしいわ。


 誰が言い出したんか知らんけど、嫌いやないで。


 この昭和臭い呼び名。

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神戸の六甲山 川詩夕 @kawashiyu

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