最終話 旅立ち

家に戻ると、ひかりちゃんが学校から帰ってきている。俺を見ると安心したような顔をした。


「ミー助、帰って来たんだね。ちょうど良かった」



ママの陣痛が始まったので、これからパパの運転でママと一緒に病院へ行くらしい。病院から戻るのが何時になるかわからない。小さな女の子を一人で留守番させるわけにはいかないから、三人で病院へ行くようだ。


「いつ帰って来れるかわからないから、多めにね」


そう言って、餌皿にいつもより多めの食事を入れてくれた。俺はこうして当たり前のように食べさせてもらっていたけれど、決して当たり前じゃなかったんだ。食事をじっと見て食べ始めない俺の様子を心配して、ひかりちゃんがしゃがみ込む。


「ミー助、どうしたの? 食べていいんだよ」

(わかってるよ、わかってるよ。ひかりちゃん)


これがこの家で最後の食事だ。心の中で何度もお礼を言う、ひかりちゃんの手をペロペロと舐めた。申し訳なくてひかりちゃんの顔を真っすぐに見られないや。



三人が出かけた後、少し家の中を歩いた。いつの間にかミー子の匂いはしなくなっている。きっと今は俺の匂いかな。でも、いずれ子どもの匂いと笑顔で溢れる家になるんだろう。おませなひかり姉ちゃんも、元気な弟くんも見られないのは心残りだが、みんな幸せになってね。


外の小屋に置いてあったママのイヤリングを、リビングに持ってきて餌皿の横に置いた。ママ、喜んでくれるかな。置手紙とかできればいいのに。




暗くなるのを待って外へ出た。



俺が向かうのは朝日が昇るほう。この町の思い出を噛みしめながら、ゆっくりと歩く。


「ミー助!!」

 「元気でな!」

  「今までありがとう」


町を出る所で、たくさんの猫が声をかけてくれる。あっ、やっぱりテツだ。テツがみんなを誘って見送りに来てくれたんだ。粋なことをしてさ。


それと...暗がりの中で自分が黒いから俺に気付かれないと思っているんだろうけれど、すぐに分かるさ、ジャンプ父さん


「みんな、ありがとう!」


俺はそれだけ言って駆け出した。ここでゆっくりしていると、前に進めなくなってしまいそうだったから。


みんなが見えなくなって、またゆっくりと歩き始めた。


もし、もしもだよ。この命を全うして、また転生して今の記憶が残っていたとしたら、きっと今度はどこにいてもこの町に戻って来たいと思うんだろうな。テツに言ったように、なんとしてもみんなに会いたいと思うんだろうな。



俺は歩くのを止めて、声をかける。


「元気だったかい? 母さん」

「あらら、ゴンベにバレちゃうなんて私もヤキが回ったね」


懐かしい匂いがしたから、すぐにわかったさ。俺の嗅覚は犬なみだからね。


「町の有名猫が旅立つからみんな大騒ぎだって噂を聞いてね。それで様子を見にきたら、あんたの事だったんだね」

(いったい誰が有名猫なんだろうね)


「プチ!」


母さんの隣には、俺とそっくりだが身体は小さめの猫がいる。プチだよね。チョコがはぐれてしまったって言っていたが、母さんと一緒だったんだ。


「元気そうだね」

「うん。俺は今までミー助っていう名前で飼ってもらっていたんだ」

「そうかい、そうかい」

「母さん、ミー子は知っているよね?」

「うん、仲良しだったよ」

「亡くなったんだって、それで俺が代わりにその家でね」

「それでミー助っていう名前なんだ...ミー子は残念だったね」


テツの話では、母さんとミー子は仲良しだって言ってたからね。母さんは少し寂しそうな顔をした。


「ペチも元気だよ。親切なばあちゃん家で飼ってもらっている。今はチョコっていう名前さ」


俺の話す様子に、母さんは満足気だ。でも、なんでプチと一緒にいるんだろう。母さんはその時の様子を話してくれる。


ペチチョコが、子どもたちから慌てて逃げるところは見ていたんだよ。その時に逃げ遅れたこの子を、仕方ないから咥えて逃げたのさ。結局今まで一緒」

「無事で良かった。もしプチの行く所が無ければチョコの家に行ってみればいい」

「ありがとう。それとポチはね、二つ隣の町で猫をたくさん飼っている家があって、そこに紛れ込んで住んでるんだよ。あの子は要領が良かったからね」


兄弟、四匹ともなんとか無事に生きていたんだ。お互いの安否が確認できて、本当に安心した。



「それから、父さんジャンプにも会ったよ」


俺の口からジャンプの名前が出てたのが意外だったようで、母さんは驚いた顔をした。


「いろいろ世話になった。たまには会いに行ってあげてよ」

「そうだね」

「今行けば、きっと惚れ直すよ」

「親をからかうんじゃない」


「ミー子の隣の家のテツも知っているだろ?」

「あぁ、あのブサ猫だろ」

「ブサだけどさ、逞しくなったんだよ。なにかあればテツを頼るといい」

「あいつがかい?」

「うん、俺の親友なんだ」



母さんが言った通りだったよ、この町にはたくさんの『ご縁』があった。俺は遠く富士山の麓、ひよちゃんに会うために旅立つ。出会いも困難もあるだろう。でも、なにがあっても大丈夫。



そう、俺はミー助。フリーランスの超猫スーパーキャット ミックスのミー助だ!!





超猫の冒険譚  出雲編  - To Be Continued -




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最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


タイトルが『冒険譚』のわりに冒険をしていないのはご容赦ください。

ミー助の本当の冒険はこれからなのです。『出雲編』に続き『放浪編』

は現在考察中です。


ここまで読んでいただいた感想やアドバイス、できればアイデアなど(-_-;)

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超猫の冒険譚 ~俺の名はミックスのミー助 二つ名は柴犬の茶々丸~ 出雲編 三木小鉄 @mikikotetsu

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