9 穏やかに
部屋にカバンを置き、リビングに行く。
母がバラエティ番組を見ながらケラケラ笑っていた。
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
母が椅子に座ったまま、身体の向きだけ変えて声をかけてきた。
「あんた、なんか今日あったの?」
「あれ、今日サークルの飲み会があるって言ってなかったっけ」
「何言ってんの。そんな事は知ってるわよ。そうじゃなくて、疲れてるように見えるんだけど。何かあった?」
図星をつかれて動揺する。
なるべく平静を装って答える。
「いや、特には無いよ」
「そう、ならいいんだけど。早く風呂はいっちゃいなさい」
「うん」
母は再びテレビに身体を向けた。
風呂はすぐに出て、部屋に戻った。
母の言う通り、今日は何時になく疲れた一日だった気がする。
たまにしか参加しないとはいえ、この飲み会も僕にとっては立派なサークル活動だ。
サークルは自分の居場所を作るためのものだと僕は考えている。
そして、居場所=部室であり、居場所を確保できたならば、それ以上踏み込んだ事はしたくない。
幸い、活動への強制力は無いから、今後もこれ以上深くサークルメンバーと関わるつもりはない。
見透かされていた事に恥ずかしさは感じたが、居場所をもらっているせめてものお礼のために、部室掃除も続けよう。
ただ、それだけ。
平穏に残りの三年を過ごせればいい。
そんな事を考え、寝ようとしていた時に、スマホに通知が流れてきた。
メッセージを受信したようで、画面には「根沢亜耶」と表示されていた。
メッセージを開くと短く「今日はお疲れさま。連絡先ありがとねー」とだけ書いてあった。
あまりこういうやり取りをしない僕は
「どういたしまして」の一言を思いつくのに、30分スマホとにらめっこをしていた。
面と向かって彼女と言葉を交わした時とは違った感覚がそこにはあった。
僕の返答に彼女がどういう気持ちを抱くのか、どうしても気になってしまっている。
メッセージでのやり取りに慣れていないので仕方がない、と自分に言い聞かせた。
今日はあまりよく寝れないかもしれない。
幽霊部員やってたら連絡先聞かれました 松本啓介 @guencock_wp
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